2025年3月26日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月11日

 より差し迫った問題は、米国が欧州に駐留する約9万人の部隊を突然撤退させたらどうするかだ。最も差し迫ったリスクは、ロシアによるウクライナへの全面侵攻直後にバイデンがポーランド、ルーマニア、バルト諸国に派遣した2万人の米軍をトランプが撤退させることだ。トランプは2月18日、和平協定の一環として在欧米軍を全て撤退させたいとは思っていないとして、さらに、戦後はウクライナの欧州平和維持軍を支援すると述べている。

 理論的には、欧州が国境を攻撃から守るために十分な軍隊を供給することは容易である。欧州の軍隊は合計で約200万人の軍人を抱えている。また、欧州軍が十分な弾薬、補給品、部品を備蓄しているかどうかもわからない。

 もう一つの課題は、米国の核の傘、特に戦術核の問題である。欧州の2つの核保有国であるフランスと英国は、合計約515個の核弾頭を保有しているが、これらのほとんどは戦略核である。米国が正式に欧州を守らないと宣言した場合、欧州諸国は、特定地域の標的を破壊する米国の戦術核にアクセスできなくなる。

 欧州の「防衛の自律性」への願望は新しいものではない。NATOの歴史の大部分で試みられてきた。1950年代初頭の欧州防衛共同体創設の構想に始まるが、これらの努力は皆失敗してきた。しかし、それは米国がまだ欧州の防衛を保証しようとしていた時のことだ。

* * *

欧州防衛力強化でも間に合わず

 欧州では、2月中旬のミュンヘン安全保障会議で米国が欧州の安全保障から距離を置く姿勢を明確にしたこと等を受けて、「米国の支援が得られなくなる場合」を想定した議論が急速に高まっている。少なくとも在欧米軍の「削減」は与件の一つとして、欧州の防衛力強化が議論されている。在欧米軍が将来的に一定の削減を遂げることは避けられないかも知れないが、その中で米欧間の結束が弱まっているとの印象を与えることは西側全体の利益にならない。

 以下、欧州における米軍の役割が如何に不可欠であるか、在欧米軍の削減がもたらし得る米国の国益に対する問題点にも触れ、これを削減することの対露・対中政策上の懸念を指摘したい。

 まず、現在ならびに近い将来において、欧州の安全保障は米欧間の協力、端的には米国の支援なしにはほとんど考えることさえできない。特に以下の点において欧州軍は米国に大きく依存している。

 ①情報・監視・偵察(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance; ISR):欧州軍はミサイルを発射するにしても、入力すべき目標物の三次元位置情報の多くを米国の衛星やAWACS、グローバルホーク等に依存している。これらの支援なしには火力攻撃さえ困難となる。


新着記事

»もっと見る