アンガー氏の主張を補強するような情報はほかにもある。英紙ガーディアンは18年、トランプ氏が77年に結婚した妻、イワナ・ゼルニスコヴァさんが東欧チェコの出身だったことから、同国の情報機関がトランプ氏に目をつけ、イワナさんの父親を経由して、トランプ氏の情報を収集していた事実を暴露した。
ガーディアンはチェコメディアと協力して、チェコの元情報機関員にも直接取材を行い、当時の記録ファイルなどとともにチェコ当局が当時、トランプ氏の動静を注視していた事実を報じている。チェコ当局の情報がソ連にわたっていたかはわからないが、いずれにせよ旧共産圏において、トランプ氏は目立つ存在であったことは間違いない。
即時停戦を無視し、攻撃続けるプーチン氏
もちろん、トランプ氏は自身がロシアの影響を受けているなどとする指摘に対しては、「私はロシアのために働いたことは一度もない。すべてはデマだ」と述べて強く否定している。トランプ氏が勝利した16年の大統領選にロシアが介入したかをめぐる調査においても、トランプ陣営がロシア政府と協調して、彼らの介入行為を許したといった事実も認められなかった。
第1期のトランプ政権が、一貫して親ロシア的であったともいえない。トランプ氏は確かに、大統領選においてはロシアに対し極端なほど融和的な姿勢を示したが、就任からわずか3カ月後にロシアが後ろ盾のシリア政府軍の拠点に「化学兵器を使用した」との理由で巡航ミサイルを撃ち込み、プーチン氏を激怒させた。
その後もトランプ政権をめぐっては、相次ぐロシアとの関係性の発覚を受け「ロシア・ゲート」とも呼ばれる状況になり、同政権下でロシアに対する経済制裁は、むしろ強まったとも指摘される。
外交上、他国の有望な人物に対して様々な施策を通じて、その人物を自国の味方に引き入れようとする動きは決して珍しいことでもない。富裕なビジネスマンで、旧共産圏との関係もあったトランプ氏の動静をソ連、ロシア当局が注視していたとしても、何ら不思議ではないだろう。
ただそれでも、バイデン前政権からトランプ政権への移行で起きた米国の外交上の方向転換は、トランプ氏がロシアの影響を受けて政策を実行しているとの疑問をかきたてるものばかりだ。米国の後ろ盾でロシアの侵略行為に対抗してきたウクライナへの支援を止めれば、ウクライナに勝ち目はない。軍事面での協力削減や米国際開発庁(USAID)の解体など、欧州やアジア地域における米国の影響力を落とすかのような行為も、ロシアが強く願ってきたことで、トランプ氏の政策でロシアに有利に働かないものを見つけることの方が困難だ。
ウクライナの全面的な支配を狙うプーチン氏は、トランプ氏による即時停戦の呼びかけを無視し、米国の後ろ盾を失いかけているウクライナへの進撃の手を緩める気配はない。トランプ氏がロシアの影響下にある、ないにかかわらず、プーチン氏は笑いが止まらないに違いない。
