資金洗浄の手段か
アンガー氏がウクライナや欧州のメディアに語ったところによれば、トランプ氏とロシアの関係は、旧ソ連時代の80年代にまでさかのぼる。ニューヨークで開業したばかりの超高層ビル「トランプ・タワー」において、デビッド・ボガティンという名前の男性が600万ドルを投じてタワー内の5つの部屋を購入したことがそのきっかけという。
ボガティンはロシア・マフィアとつながりを持つ人物で、物件の売買を通じて資金洗浄を行った。アンガー氏によれば、トランプ・タワーなどトランプ氏が手掛ける物件を所有したロシア人13人が、マフィアとの関係を持っていたとしている。事実であれば、トランプ氏の物件を舞台に、旧ソ連の諜報機関が暗躍していたということになる。
トランプ氏はさらに当時、KGBのフロント企業とされる亡命ロシア人が経営していた電化製品店から、数百台ものテレビを購入していた経緯もあるという。自社物件に設置されるものだったが、そのようなことからKGBがトランプ氏に着目し、その後の87年の同氏のロシア訪問につながっていった。
英メディアの報道によれば、トランプ氏は87年の訪露でチェコ出身の妻とともにモスクワとレニングラード(現サンクトペテルブルク)を訪れたが、それはソ連の駐ワシントン大使からの招待によるものだった。
当時のトランプ氏の足跡は、すでに多くのメディアが報じているところだ。アンガー氏の主要情報源とされる元KGB工作員で、ロシアのタス通信社のワシントン支局員だったユーリー・シュベツ氏が語ったところによれば、トランプ氏はこのロシア訪問を経て、ロシアとの関係を深めることとなる。
帰国後、トランプ氏は約9万5000ドルもの巨額をはたいて複数の米主要紙に、当時の米国の外交政策を批判する全面広告を掲載したという。トランプ氏は当時、将来的にビジネスでロシアに進出する可能性も示唆していた。トランプ氏はこのころから、外交に関する情報発信を積極的に行うようになっていった。
トランプ氏は「ロシアのアセット(資産)」
アンガー氏はまた、トランプ氏は直接KGBから報酬を得て、一定の仕事をこなす「エージェント(工作員)」ではなく、「アセット(人的資産)」と位置付けられていたと指摘する。アセットとは、いわば強い親近感を持って、相手の立場を考慮して行動する人物のことだ。
石油業界で巨額の資産を築いた米国の富豪、アーマンド・ハマー氏もそのようなアセットだったとアンガー氏は指摘する。ハマー氏は、ソ連でも支店を設けるなど活発なビジネスを展開していたが、ハマー氏が高齢になるなか、当局は同氏に代わる人物を探しており、その過程でアプローチした人物の1人が、トランプ氏だったという。
アンガー氏は、トランプ氏はビジネスの失敗で幾度も破産した経験を持つが、そのような状況を救ったのがロシアマネーによる不動産投資だったと語る。そして、そのような長年にわたるロシアへの恩義が、トランプ氏を親ロシアに仕立て上げたとしている。