2025年3月30日(日)

BBC News

2025年3月25日

(左から)ドナルド・トランプ大統領、J・D・ヴァンス副大統領、ピート・ヘグセス国防長官、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)

米ホワイトハウスは24日、同国によるイエメンでの軍事攻撃の計画について国家安全保障当局者らがセキュリティー対策の不完全なチャットグループで協議し、そこにジャーナリストが誤って加わっていたことを認めた。

米誌アトランティックのジェフリー・ゴールドバーグ編集長はこの日、J・D・ヴァンス副大統領やピート・ヘグセス国防長官がメンバーだったと思われる、暗号化メッセージアプリ「シグナル」のチャットグループに、自分が追加されていたと報じた

ゴールドバーグ氏はこのチャットでのやりとりから、フーシ派に対する軍事計画を攻撃開始の2時間前に知ったという。これには武器パッケージ、標的、攻撃タイミングの詳細が含まれていた。

米国家安全保障会議(NSC)のブライアン・ヒューズ報道官はBBCに対し、「現時点で報告されたメッセージスレッドは本物のようだ。『シグナル』に誤って番号が追加された方法を確認している」と説明。

また、「このスレッドは、高官らが深く思慮深い政策調整をしていることを示している」とも述べた。

ドナルド・トランプ米大統領は24日午後、記者団に対し、アトランティックの記事については知らないと述べた。

情報漏えいが報じられると、野党・民主党から批判の嵐が起こり、一部の共和党議員からも懸念の声が出た。

チャットを「攻撃の調整」に使用、攻撃開始に絵文字で反応

アメリカは今月15日、イエメンのフーシ派に対して「決定的かつ強力な」空爆を開始した

ゴールドバーグ氏の記事によると、同氏はその4日前の11日、「シグナル」でマイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)からリクエストを受け取ったという。

「シグナル」は、通信の安全性が高いほか、エイリアス(別名や通称)を作成する機能や消えるメッセージを送信する機能などがあり、ジャーナリストやワシントン当局者らが使用している。

さらにその2日後の13日、ゴールドバーグ氏は「フーシ派PC小グループ」と題されたチャットグループに追加された。このチャットには18人が参加しており、閣僚や国家安全保障当局者と思われるアカウントが含まれていたという。

ヴァンス副大統領やヘグセス国防長官のほか、ジョン・ラトクリフ中央情報局(CIA)長官、タルシ・ギャバード国家情報長官、マルコ・ルビオ国務長官など、さまざまな機関のトップらの名前があったという。

チャットには、このグループが「特に今後72時間以内に」、フーシ派に対する攻撃の調整に使用されるとのメッセージもあったという。

ゴールドバーグ氏は記事内で、「最初はこのテキストグループが本物であることに非常に強い疑念を抱いていた。アメリカの国家安全保障指導部が、差し迫った戦争計画について『シグナル』で通信するとは信じられなかったからだ」と書いている。

攻撃当日の15日、ゴールドバーグ氏はスーパーの駐車場で座って、攻撃に関するやりとりを見ていたという。その時点でも、グループチャットが本物なのか確信が持てなかったという。

しかしその後、イエメンに関する最新情報をソーシャルメディアで検索したところ、首都サナアでの爆発が報じられていた。

チャットを確認すると、「マイケル・ウォルツ」というアカウントが、「素晴らしい仕事だ」と投稿していたという。

ゴールドバーグ氏が公表したグループチャットの内容には、軍事攻撃が開始された後の当局者の反応が含まれている。

それによると、ウォルツ氏はこぶしの絵文字、アメリカ国旗の絵文字、火の絵文字で反応していた。

また、「MAR」のイニシャルを持つユーザーは、「ピートとそのチームはよくやった!!」と送信している。ゴールドバーグ氏は、これがルビオ国務長官だとみている(ルビオ氏のフルネームはマルコ・アントニオ・ルビオ)。「ピート」とは、この攻撃の詳細をチャットグループに共有したとされるヘグセス国防長官を指している。

ゴールドバーグ氏によると、「スティーヴ・ウィトコフ」というユーザーが、祈る手の絵文字二つ、力こぶを作る腕の絵文字、アメリカ国旗の絵文字二つで応答したという。ウィトコフ氏はトランプ大統領の中東担当特使を務めている。

BBCはチャット内の個々のユーザーを独自に確認できていないが、当局はチャットグループが本物とみられると認めている。

アメリカのフーシ派への攻撃は継続している。AP通信によると、アメリカは23日夜から翌日にかけて、フーシ派への追加攻撃を開始した。

ヴァンス副大統領がトランプ氏に異議? 欧州への嫌みも

ゴールドバーグ氏は記事の中で、「JD Vance」というアカウントが、トランプ大統領と意見を異にしているように見えたと伝えている。

このアカウントは3月14日午前8時15分ごろ、「大統領がこのことと、ヨーロッパに対する自分のメッセージが、どれほど矛盾しているかを認識しているかわからない」と書いている。

また、「石油価格の上昇に関して、中~深刻な程度のリスクがある」というメッセージも送っていた。

そのうえでこのアカウントは、「私はチームの合意を支持し、この懸念を自分の中にとどめておくつもりだ」、「しかし、これを1カ月遅らせること、なぜこれが重要なのかを伝える作業を行うこと、経済状況を確認することなどについては、強い論拠がある」としている。

ヴァンス副大統領の報道官は、24日にBBCに対し、「副大統領はこの政権の外交政策を明確に支持している」、「大統領と副大統領は、この件についてその後も話し合いを続けており、完全に一致している」と述べた。

チャットではまた、アメリカの攻撃が結果的に欧州諸国を助けることになるなどとして、全員が攻撃計画を支持していたわけではなかったことがわかる。

3月14日にはウォルツ氏のものとみられるアカウントが、トランプ大統領の要請により、ウォルツ氏のチームが国防総省と国務省と協力し、「関連費用をどのように算出し、それをヨーロッパに課すかを決定する」ための作業をしていると書いていた。

「JD Vance」というアカウントはこの話の中で、「もしやるべきだと思うなら、やろう。ただ、またヨーロッパを救済するのは嫌だ」書いている。

それに対し、ヘグセス国防長官のものとみられるアカウントが、「他国にたかるヨーロッパには私も嫌悪感を持っている。本当にひどい話した」と返していた。

「私の電話番号だったのは幸運だった」とゴールドバーグ氏

ゴールドバーグ氏は24日、米PBSのニュースアワーに出演し、「追加されたのが私の電話番号だったのは非常に幸運だった」と語った。

「もし誤った電話番号を選ぶなら、少なくともフーシ派を支持する人ではなかったことは幸運だった。彼らは実際、この作戦に関与するアメリカの軍人の命を危険にさらす可能性のある情報を渡していたと思う」

ゴールドバーグ氏は、メッセージが高官間の議論を示しているという政権の声明に異議はないが、セキュリティーの懸念を考慮するとその点は重要ではないと述べた。

ヒラリー・クリントン氏も「冗談でしょう」と反応

トランプ大統領は24日の記者会見でこの件について聞かれると、「アトランティックは好きじゃない、もうすぐ廃刊すると思う」と述べた後、グループチャットについては「たった今、君から初めて聞いた」と、記者に答えた。

一方で、「その記事はあまり効果的ではなかっただろう。フーシに対する攻撃は非常に効果的だった。そう言えるからだ」と述べた。

ホワイトハウスのキャロライン・レヴィット報道官は声明で、「フーシ派への攻撃は非常に成功し、効果的だった」と述べた。

声明はまた、「トランプ大統領は、マイク・ウォルツ国家安全保障問題担当補佐官を含む国家安全保障チームに対し、最大限の信頼を持ち続けている」とした。

ハワイを訪問しているヘグセス国防長官はこの件についての記者からの質問をかわしながら、ゴールドバーグ氏が真剣なジャーナリストではなく、「ごみを売り歩いている」と主張した。

グループチャットについて重ねて質問されると、ヘグセス氏は「誰も戦争計画をテキストで送っていない。それについて言えるのはそれだけだ」と述べた。

民主党の議員からは、このチャットに関する調査を要求する声が上がっている。

チャック・シューマー上院院内総務は、「このような機密の軍事計画を漏えいした政府職員は、捜査の対象となり、非常に厳しい措置が取られる」と指摘。両党が協力して「徹底的な捜査を行うよう」ただちに求めたと述べた。

また、「この人たちは明らかに、この仕事にふさわしくない」と、チャットグループに参加していた政府高官らを批判した。

下院常設情報委員会の一員であるジム・ハインズ議員は、この問題に恐怖を感じており、今週の聴聞会で取り上げると述べた。

ヒラリー・クリントン氏はソーシャルメディアで、アトランティック誌の記事へのリンクとともに目の絵文字を投稿し、「冗談でしょう」と書いた。

クリントン氏は国務長官時代、ニューヨークの自宅で使用していたメールサーバーシステムに関して激しく批判された。トランプ氏はこの件を繰り返し取り上げ、クリントン氏を投獄するべきだと主張していた

メールに関する捜査の結果、連邦捜査局(FBI)は2016年7月、クリントン氏の刑事訴追は適切ではないと結論した。

<解説> このチャットは違法なのか ―― ケイラ・エプスティーン記者

ジェフリー・ゴールドバーグ氏がアトランティックの記事で報じたところによると、ウォルツ国家安全保障問題担当補佐官がグループチャットに送った一部のメッセージは、1週間後に消えるように設定されていた。

このことが、政府記録の保存を義務付ける大統領記録法と連邦記録法に関する懸念を引き起こしている。

「法律では、非公式アカウントで行われる電子メッセージは、何らかの形で公式の電子記録保存システムに保存されることが求められている」と、元国立公文書記録管理局訴訟部長のジェイソン・R・バロン氏は述べた。

この規制は、「シグナル」のメッセージにも適用されるという。

公式の政府通信は、自動的に保存されるか、関係者がメッセージを転送、複写、または保存することが求められている。

バロン氏は、「これらの通信が自動的にアーカイブされたかどうかがわからない」、「実際に保存されたかどうかは不明だ」と指摘した。

また、チャットに参加した個人が記録を保存するために他の手段を講じたかどうかも不明だという。

さらに、軍事攻撃について「シグナル」で議論することは、セキュリティー上の問題も引き起こした。

「『シグナル』でされた会話が機密扱いされる可能性があると仮定した場合、国防総省の指導に基づき、これらの通信は機密政府ネットワーク上で、または政府承認の暗号化機能を備えたネットワーク上で行われるべきだ」とバロン氏は述べた。

「これらの電子メッセージアプリを使用して連邦記録保存要件を回避することについて、私たち全員が懸念を持つべきだ」

(英語記事 Top US officials shared Yemen strike plans with journalist in group chat/ Political uproar over Trump national security team's Signal chat app leak

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cj0qlzv256vo


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