木にとっては可哀想な環境
街路樹をよく観察すると、生育環境に問題があることに気づく。
街路樹は、歩道に設けられた植樹桝に植えられるのが普通だが、根を拡げるスペースが極端に狭い。植樹枡は、単独枡、連続枡、花壇型などいろいろあるが、歩道の幅によって決まってくるため、一辺が1m以下の場合が多い。
深さも1m程度。枝葉は直径3~4mに広がっているのに、その根株の広がれる空間は小さすぎるのだ。
植樹枡の周囲の歩道や車道の下は、たいてい建設残土などを入れて堅く撞き固められているから根は伸ばせない。水道管やガス管など地中埋設物が周辺にあっても、根は広がれない。また地表は舗装されてほとんど水を通さないが、地下水位が高いと根腐れを起こしやすいし、低ければ水分が足りず枯れるか、根を地表に上げて伸ばすようになる。
なお樹木の根は、水や養分を求めて伸びる。水がなければ地下深くには伸びない。根を地中30cm程度しか伸ばさない浅根性の樹種もある。
ところが植樹桝のため横に伸ばせないと、地表に根が上がる。すると大木ほど重心が高くなり倒れやすくなる。
さらに木が育つには日照不足の場所もあれば、ビルの反射光や夜間の街灯で光害を受けて生育に支障をきたす植物もある。生育不良となれば病害虫も寄せつけやすくなる。
また1本だけ植えられた孤独な植物は、生育面でも思わしくないようだ。さまざまな動植物が集まって生態系を築いた方が健全に育つとされている。
行政にとっての課題
さらに問題なのは、管理担当者の知識不足だろう。行政の窓口には、生物や環境に関する基礎的な知識のない者が配置されることが少なくない。なぜなら街路樹の管轄は、土木部門であることが多いからだ。街路樹は道路の付属物扱いなのである。
なかには熱心に勉強する人もいるのだが、役所内では頻繁な人事異動があるため、また素人が担当することになる。実際の作業も土木業者が請け負うことが多く、樹木を扱うことに慣れていない。結局、設置の際に小さな植樹桝に大きくなる木の苗を植え、根元はギリギリまでアスファルトで覆って歩道幅を確保する……ようなケースも起きる。
加えて自治体も財源不足。管理の手間とコストを減らしたくて、弱度の剪定を繰り返すよりも、一気に枝を伐る方が安上がりと考える。請け負う造園会社は、樹木によくない作業とわかっていても異議を唱えない。仕様書から外れた作業をすると検査が通らないからだ。