フロリダ州知事選での活躍が
トランプ陣営入りの契機に
トランプとの出会いはかなり後になってからである。2015年、トランプは大統領選への出馬を表明した直後、フロリダ州の有力なロビイストで共和党の資金調達者であるブライアン・バラードに、同州での勝利を支援してくれる政治活動家の名前を尋ねた。バラードがトランプに推薦した人物が他ならぬワイルズだった。政治経験がなく知名度も低いリック・スコットが10年のフロリダ州知事選に立候補したとき、ワイルズがその選挙運動を成功に導いたことを目の当たりにしていたからだ。
これを機にバラードはロビー活動会社バラード・パートナーズのジャクソンビル事務所を開設した。
ワイルズがトランプに直接会ったのは、15年9月、ニューヨークだった。当時トランプの大統領選出馬は半分冗談だと見られていた。ワイルズは、「トランプには公の場での罵詈雑言とは違った政治的才能と個人的な魅力がある」と友人たちに語っており、トランプなら大統領になれると確信していた。
ワイルズはフロリダ州で名声を確立している。スコット前知事だけではなく、デサンティス知事の選挙対策本部に参加し、その初当選を後押しした。また、彼女はジャクソンビル市長の首席補佐官を務めたり、国会議員や労働省で低位の役職に就いていたりしたこともあり、地道に政界での経験を積み重ねていった。
トランプは公の場では、扇動的で挑発的な暴言を吐くが、それは表向きのトランプであって、「私が知るドナルド・トランプはそんなふうには振る舞わないし、私が彼を見るレンズには、そんなものは何も見当たらない。私は強さ、賢さ、比類のない労働倫理がはっきり見える」と16年にフロリダのタンパベイ・タイムズ紙に語っている。
実際、筆者はトランプの側近として働いたかばん持ちや牧師にもインタビューしたことがあるが、「トランプの暴言は、カメラ用である。実際のトランプは丁寧(gracious)で、人の言うことに耳を傾け、協力的である」と異口同音に語る。ワイルズはトランプの良い面と悪い面を熟知しており、ホワイトハウス内でトランプを操ることができるのは、彼女しかいないということである。
また、彼女は21年1月6日の議事堂襲撃についてトランプ氏を責めていない。ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「あの日、トランプがエリプス(ホワイトハウスの南にある大きな芝生広場)に行って、『私は国会議事堂で暴動を起こし、人々が破壊を行い、誰かが傷つき、死ぬことになる』と言ったとは思えない。トランプがそんなことを考えたことはない」と語っている。
