2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年5月2日

勢力の振り子

 現在の米メディアの取り上げ方をみても分かるように、関税交渉におけるトランプ政権の「顔」は、ナバロからベッセントにシフトした。トランプは相互関税を90日間一時停止し、その間に各国とディール(取引)を行い、目に見える成果を米国民にアピールする目論見だ。それに不可欠な人物がベッセントである。

 仮にベッセントが90日間に各国との交渉に成功し、成果を得ることができれば、ナバロとベッセントのパワーゲームの勝者は完全にベッセントになり、政権内の勢力の振り子は彼の位置で止まるだろう。

 逆に、本丸の中国との間で、ディールが不成立に終わった場合は、振り子はナバロの方向へ向かっていく。その結果、トランプはナバロの助言に再度、耳を傾け、追加関税をかけていくことになるかもしれない。

 あるいは、今回、トランプは関税でディールを行うことに限界を感じ、ナバロを使わない可能性もある。こうなった場合、責任を相互関税の設計者であるナバロに押し付けるかもしれない。

 第1次トランプ政権で、トランプはレックス・ティラーソン元国務長官を解任し、ジェームズ・マティス元国防長官やウィリアム・バー元司法長官を辞任に追い込んだ。それに対して、スティーブン・ムニューシン元財務長官とは4年間、関係を維持した。株価、国債及びドルの動きが、トランプ自身の財産に大きく影響を及ぼすため、財務長官を他の閣僚とは切り離して考えている節がある。

米国民はトランプ関税をこうみる

 米国民はトランプ関税について、どのようにみているのだろうか。  

 まず、米ピュー・リサーチ・センターの全国世論調査(2025年4月7~13日実施)によれば、「トランプ政権が米国と貿易をしている大抵の国からの輸入品に高関税をかけることに賛成か反対か」という質問に対して、賛成39%(「強く賛成」と「やや賛成」の合算)、反対60%(「強く反対」と「やや反対」の合算)であった。反対が賛成を約20ポイントも上回った。  

 また、英誌エコノミストと調査会社ユーガブの全国共同世論調査(同月19~22日実施)では、39%が「関税は短期的には経済的に苦痛をもたらすが、長期的には経済成長へ導く」と回答したのに対して、50%が「関税には長期的な利益はなく、経済と消費者に有害である」と答えた。トランプは前者の立場をとっており、多数派の米国民から支持を受けていないことが分かった。

 さらに、同調査では、74%が「関税は価格を上げる(「大きく」と「やや」の合算)」、8%が「関税は価格に影響なし」、6%が「関税は価格を下げる(「大きく」と「やや」の合算)」、11%が「分からない」と回答した。米国民の7割以上が、関税により製品やサービス等の価格が上昇すると捉えている。

 以上のようにトランプ関税は全体的にみると米国民に不人気であるが、それでも、トランプは関税政策を推し進める。共和党内ではトランプ関税が支持されているからである。党派別にみてみよう。

 米ハーバード大学と調査会社ハリスの全国共同世論調査(同月9~10日実施)によれば、民主党支持者の76%がトランプ政権の関税プログラムに反対であるのに対して、共和党支持者の79%が賛成であった。同調査では、共和党支持者の87%が「関税は国内の雇用を守るのに重要である」と答えた。このことからも明らかなように、トランプが関税に固執する理由には、白人労働者を中心にしたMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大にする)たちの支持がある。


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