一方、政権高官たちは米国の優越性と同盟国との連携をより重視した。1期目のトランプ政権では、グレイ氏ら側近が大統領の関心と米国の国益のバランスを取ることに腐心したことは想像に難くない。
太平洋戦争の戦史に詳しい
トランプの〝意外な〟一面
同盟国にも関税をかけ、米国第一主義を先鋭化させている現在の米国。ウクライナ停戦をめぐるロシア寄りの姿勢も、多くの同盟国に不安を与えている。政権内で大統領に同盟国の重要性を説く人物も見当たらず、米国はもはや同盟国として信用できないとする声も各国で上がり始めている。しかし、日本にとって日米同盟に代わる枠組みはあり得ない。何より、「核の傘」を日本に提供できるのは米国だけである。
グレイ氏から興味深いエピソードを聞かされたことがある。2018年2月にインド太平洋戦略枠組みを策定するにあたり、側近が西太平洋の地図を用意し、大統領に戦略の内容を説明しようとした。すると、トランプ大統領はガダルカナル島の戦いやソロモン海戦など、太平洋戦争中に日米が各地で繰り広げた戦いについて話し始めたという。あまり知られていないことだが、トランプ大統領は太平洋戦争の戦史に詳しいのだそうだ。その後、部下から第一列島線防衛の重要性に関する説明をうけ、大統領は即座にこの文書の策定を承認したのである。
この話が示すのは、トランプ大統領に対して第一列島線防衛に関する日米協力を呼びかける価値はあるということだ。もちろん、豪州、韓国、フィリピンなどとの協力も合わせて主張する必要がある。米国が信用できないという前に、米国が国際秩序を維持するために負ってきた負担を減らしつつ、アジアにおける米国の利益を守るために多国間の協力強化を提案するべきであろう。
