2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月22日

 揺さぶりは部分的には巧く行った。Paul Weiss はトランプのお気に入りの主義主張のために 4000万ドル分のプロボノ(社会貢献の趣旨による無償の法的サービス)を約束してトランプの愛顧を取り戻した。その後、他に8つの法律事務所が取引をしたが、総額で9億ドルのプロボノを提供することになった。

 しかし、4つの法律事務所は提訴した。Paul Clement(100を超える最高裁の案件を担当した)や Dane Butswinkas(短期間テスラの顧問弁護士だった)のような著名なロイヤーが彼等の代理人を引き受けている。彼等の議論はNRAの議論を踏襲するものである。事務所が担当した案件を理由に顧客に関係を断つよう圧力をかけることは、言論の自由の権利の侵害である。

 4人の連邦地裁判事がトランプの大統領令を一時差し止めたが、法律事務所は恒久的な救済を求めている。彼等の戦いから生まれる判例法は、大学と非営利団体の命運を決めるであろう。

 戦うことを決めた法律事務所の初期の成功はあるが、標的とされた他の事務所が取引で手を打つことを止めることにはなってはいない。しかし、トランプ政権の要求に応じて自身の変身を約束したコロンビア大学は助成金を復活できていない。また、プロボノを提供した法律事務所はそのうち苦境に陥るかも知れない。

 トランプは石炭のリース契約や関税を課した諸国との貿易交渉の仲介にこれらの事務所を使うことを語っている。Harvard Negotiation Project(ハーバード・ロースクールの紛争解決・交渉の改善のためのプロジェクト)のSheila Heenは、交渉するなとの異例の助言を行っている。不忠に対する懲罰は「一度取り込まれると」酷くなる一方であると彼女は考えている。

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ハーバード大学とトランプ大統領の戦い

 ハーバードはトランプ政権の圧迫に屈せず、果敢に対決する困難な道を選択した。そのことについては幾つもの社説・論説があるが、敢えてこの記事を採り上げた理由は、記事の冒頭で紹介されている最高裁の判例にある。

 このNRA v Vulloの事案の判決を書いたのはリベラル派の判事ソトマイヤーであるが、判事全員一致の判決だった。この記事が指摘するように、大学あるいは法律事務所の事案がいずれ最高裁に持ち込まれる際には、トランプ政権の一連の威圧的行動は憲法修正第一条の違反に当たるとの判断が下る可能性は十分あると思われる。

 以下にハーバードの戦いを略述しておきたいが、4月14日、ハーバードは同大学のガバナンスに関するトランプ政権の広範な改革要求を拒否することを回答した。政権の要求は「憲法修正第一条に違反し、大学の自由に侵入する」ものである、「大学はその独立を引渡しあるいはその憲法上の権利を放棄することはしない」「ハーバードであれ他の如何なる私立大学であれ、連邦政府によって接収されることは認め得ない」「ハーバードは、この政権であれ如何なる政権であれ、その合法的な権限を越える要求に同意する用意はない」とハーバードは書いている。


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