ビルの設計に人体の仕組みが参考にされていることをご存じだろうか。日建設計(東京都千代田区)は2024年、二酸化炭素(CO2)排出量を最大40%削減する超高層ビルのプロトタイプを発表した。
呼吸を促進するヒトの肺の換気ドライブを模倣して冷房負荷を軽減したり、植物の葉序を模倣して自然の光と風を取り入れたりすることで、消費エネルギーを抑え、環境に配慮したつくりのビルだ。
建設には従来よりも10%程のコストアップになるが、同社エンジニアリング部門統括常務執行役員の水出喜太郎氏は「運用コストを踏まえると、長期的に見て建設コストが高いとは限らず、検討に前向きな企業も多い」と手応えを掴んでいる。また、同社同部門設備設計グループダイレクターの杉原浩二氏は「今までも建築に用いられてきた生物模倣を応用しているため、用途に応じて自在に組み合わせることも可能だ」と話す。
「生物模倣」(バイオミメティクス/バイオミミクリー)──。
生物の構造や機能などから着想を得て製品の開発に生かす考え方で、これまでにも多くの製品が開発されてきた。
北海道大学名誉教授の下村政嗣氏は「くっつき虫を模倣した、何度も貼ってはがせるテープや、ハスの葉が持つ超撥水効果を利用したヨーグルトの蓋など、科学の発展とともに模倣される生物の特徴が解明され、適応分野が拡大してきた」と語る。
生物模倣は、最近では「脱炭素」の文脈で語られることがある。日本航空と全日本空輸はそれぞれ、サメ肌を模倣した加工を機体に施すことで空気抵抗を低減させ、日本航空の試算では日本・ドイツ間の運行で一機あたり年間で燃料消費を約119トン削減し、CO2排出量は約381トン少なくなると期待している。
1970年代のオイルショックを契機に、日本では「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」、いわゆる「省エネ法」が一部事業者に課せられるなど、省エネ化を進めてきた。
また、日本は2020年、「50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」ことを宣言し、特に航空業界では持続可能な航空燃料(SAF)を導入するなどの取り組みが進んでいる。脱炭素を目指すにあたって、生物模倣はその貢献につながる一つになるのではないか。
バイオミメティクス推進協議会事務局長の平坂雅男氏によれば「世界の生物模倣市場は大幅な成長が見込まれており、24年には509億ドル、30年までに795億ドルの市場にもなると予測されている」と話す一方で、「フランスやドイツなど、生物模倣の分野が拡大する中、日本は周回遅れの位置にいる」と指摘する。