日本でも製品化に活用
生物模倣の魅力とメリット
しかし、生物模倣に取り組む企業が日本に少ないというわけではない。船舶用塗料をつくる日本ペイントマリンでは、マグロの摩擦抵抗を下げる粘性物質がある表皮から着想を得て、船底塗料の機能を保有しつつ、従来の塗装作業で持続的な効果を発揮できる、水を捕捉して摩擦抵抗を減らす船底用塗料を開発した。同社上席執行役員技術本部長の枡田一明氏は「お客様に低燃費などの付加価値に魅力を感じてもらうことで、広く受け入れられてきた」と話す。環境対応と付加価値の双方で注目されて興味を持たれているという。同社理事で研究開発部長・技術副本部長の鍛治弘一氏は「開発は手探りであったが、〝生物がお手本として存在する〟事実は大きな担保となった」と開発秘話を明かした。
家電メーカーのシャープは、08年から生物模倣を使用した製品開発を行っている。鳥の翼の平面形状を応用して消費電力を20%カットした「エアコン室外機プロペラファン」、ホタテ貝が凹凸形状の殻を開閉させる仕組みを応用して冷蔵庫のドアの密閉度をアップ、結露防止ドアヒーターの消費電力量を20%カットした「ドアパーツ」など、その数は23カテゴリーに上るという。
要素技術開発部課長の公文ゆい氏は「白物家電の性能改善は難しい。しかし、生物を参考にすることで、答えが見えることがある。我々が思いつかないような仕組みを知るきっかけになる」と話す。
大学時代から生物模倣の研究に携わる公文氏は、その魅力についてこう語る。「クリエイティブ性の高さが魅力だと思う。今はまだ既存の商品に応用するだけだが、今後はその生物に合わせて商品自体の形が変わる可能性もある。まだまだ広がりのあるところも魅力の一つだ」。
消費者に訴えるための
ストーリーがカギ
一方、生物模倣の開発は長期かつ、企業にとって異分野の研究となることもあり、通常の研究開発に比べてコストがかかる場合もあるという。
三菱総合研究所ビジネスコンサルティング本部の舟橋龍之介氏は「CO2排出削減に貢献する製品全般に当てはまることだが、環境にやさしいだけでは消費者はなかなか買ってくれない。『コストが下がる』『新たな価値がある』などの魅力を高めることが大切だ」と話す。
消費者にも環境配慮の意識が高い層が増えていると話すのは、ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員の小口裕氏だ。「環境に優しい消費について、『何か行動を起こしたいけれど時間やお金がない』という層、納得するストーリーがあれば商品を買う層は一定数存在していると考える。環境に配慮した行動を企業に求める人も増えており、これまで以上にストーリーづくりが重要になる」
実際に、価格以上の付加価値を重視する人は多い。
「通常の2倍近い価格だったが、ファッション性や機能性、環境意識が重視され想像以上に販売できた。期間限定販売の店舗も設け、多くの方が親しめる環境を整えた」
こう語るのは、スポーツ用品の製造販売を行うゴールドウィン事業本部ゴールドウィン事業部ライフスタイル企画グループマネージャーの黒田優氏だ。
