2025年6月17日(火)

商いのレッスン

2025年5月31日

<今月のお悩み>
セクハラやパワハラの問題が「ビジネスと人権」に矮小化されて
いる印象です。株主資本主義が限界を迎えているのでは?

 ご指摘のとおり、「ビジネスと人権」という枠組みでセクハラやパワハラを扱うと、どうしても企業の評判リスクやコンプライアンスの問題として捉えられがちで、被害者の尊厳や労働環境の改善という核心から遠ざかる恐れがある。先ごろも、民放キー局の振る舞いが大きなニュースとなった。

(Atstock Productions/gettyimages)

 根底には株主資本主義がある。企業の目的を「株主価値の最大化」と捉える考え方であり、短期的利益追求につながりやすく、労働者の権利や安全は後回しにされがちである。

 そこには労働者を「コスト」としてしか見ない経営観が幅を利かせ、ハラスメントの温床となる劣悪な職場文化や不安定な雇用環境が温存される。利益追求のために同調性や忠誠心が求められ、内部通報や問題提起の声を上げづらい環境がつくられていく。

 真の解決のためには、価値観の転換が必要だ。株主利益だけではなく、従業員や取引先、地域社会なども含めた「企業を支える多様な利害関係者」を重視する経営モデルへの移行である。

 これを「ステークホルダー資本主義」という。米国の主要企業の経営者で組織される経済団体「ビジネスラウンドテーブル」が2019年に声明を発表、以来注目されるようになった。

 しかし、舶来の経営思想だからといって、ありがたがる必要はない。日本には古来、近江商人の「三方よし」や江戸時代の思想家・石田梅岩の商人道など、多様なステークホルダーの利益を考えるビジネスを実践してきた文化があるからだ。


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