碩学の考えを聞く
時間・自己・幻想 東洋哲学と新実在論の出会い マルクス・ガブリエル(著)、大野和基(インタビュー・編)、月谷真紀(訳)、PHP新書、1320円(税込)
現代は一つの危機が別の危機に組み込まれる「入れ子構造の危機」にある─。天才哲学者、マルクス・ガブリエルはこう看破し、事象の本質を理解するためには、西洋哲学と東洋哲学を総動員する必要があると説く。著者は幼少期に『老子』を読み込んだ。その要点は「待つこと」。持続可能な権力は、行動しないタイミングを知ることにあると指摘する。確かに、タリバンは「待つこと」によりアフガンで西側に〝勝利〟した。中国は台湾侵攻の機会をじっとうかがっている……。本書では、トランプ現象や資本主義の行方といった大局だけでなく、嫉妬の克服方法など身近な話題も哲学的に分析している。
不平等な時代の中で
平等とは何か 運、格差、能力主義を 問いなおす 田中将人、中公新書、990円(税込)
日本では、今なお9割の国民が「中流」と回答するが、果たしてどれほど現実的なのか。貧困はお金だけではなく、社会的スティグマなども含めて「人の存在そのものを一つの欠如として指定する」と書かれた半世紀以上前の文章は、現代社会の様子と重なる。不平等を是正するために優遇する「積極的差別是正措置」について、この社会において一定の合理性を示す場面もあるという。代表制と直接制を相補わせることで、今後の民主主義の変化にもつながるだろう。
時代と共に変化する学校の役割
学校の戦後史 新版 木村 元、岩波書店、1100円(税込)
学級の中での班活動や集団行動。現代においては、これが子供の個性の尊重を阻み、異質な者を排除する「全体主義」を増長する原因としても捉えられがちだ。しかし、元をたどるとこうした班活動は、戦前の学校教育の反省から「国家に不当に支配されない教育」を目指し、戦後の民主社会の担い手づくりとして導入されたものだった。学校の役割は時代と共に変化する。その時々に国や子供たちと向き合い、より良い教育の制度づくりに尽力してきた先人がいたことがわかった。
