2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月29日

 長引く経済不安と米国の拘束力のない最近の貿易合意は、十分な警戒すべき理由となるはずだ。そこに気まぐれな大統領が加われば、市場が強気であることが理解しがたい。

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米中にとっての成果

 米中が相互に115%関税を引き下げ、90日間を期限に交渉を行うという急転直下の妥協が成立し、市場や状況を見守っていた企業や諸国は安堵したが、この社説は、将来について何ら楽観はできないと警告するものである。経済的苦境にある中国にとって、米国との関税戦争が一時休戦となることは朗報であることは間違いなく、米国が仕掛けた高関税を撤回させることができれば外交的にも勝利である。

 他方、支持率の下落と景気後退の気配に直面しているトランプにとって、米中間のサプライチェーンの完全な崩壊を避ける必要があり、中国との間で早急に何らかの成果を出すことは極めて重要であった。すなわち双方は、関税戦争をこの辺りで一旦休息させたいという点では一致していたともいえる。しかし、この論説が指摘する通り、今後の展開は両国、特に米国にとって決して予断を許すものではない。

 社説は、(1)今後、トランプの関税政策の結果が米国経済へ打撃となって表れて来る懸念、(2)90日間で交渉がまとまらない可能性、及び(3)トランプは依然として中国に対する高関税の付加をあきらめない可能性を指摘し、楽観はできないとしている。

 本来、米国経済が比較的堅調である中、市場は、トランプの減税政策やプロ・ビジネス的な姿勢を好感していたが、その後のトランプの高関税政策等の種々の弊害をすでに織り込んでおり、少しでも正常化に近付けばそれを高く評価するので、米中サプライチェーンの崩壊が先延ばしされたことを歓迎するのは当然で、決してトランプ政権や米中関係の将来に期待したわけではないだろう。今回の合意は双方にとって経済的メリットがあったが、ベッセント財務長官は、中国との間で一般的なデカップリングは望まないことに合意があるが、米国は戦略的に必要な分野でのデカップリングを目指すとも述べている。

 トランプとしては、高関税による威嚇で中国を交渉のテーブルに着けたことやフェンタニル対策について協力を取り付けたことは成果であった。中国からしてみれば、米国がかねて提起していた貿易や投資上の問題について何らコミットすることなく米国の高関税を撤回させることは、より大きな成果である。


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