フィナンシャル・タイムズ紙上級貿易ライターのアラン・ビティが、5月9日付けの論説‘Britain’s trade deal with Trump may not be good news for the world’で、5月8日に公表されたトランプ政権の関税措置に関する米英合意は世界貿易機関(WTO)の貿易体制を浸食し英国にリスクを課すものだと論じている。要旨は次の通り。

米国と英国のこの貿易取引の設計者すら、それを経済的あるいは法的に美しいものとは言わないであろう。署名された文書すらないようである。トランプが鉄鋼と自動車に課した関税を逃れることを純粋に狙っただけで、合意は主権国家間の自由化の合意というよりも、暴力団の親分に対する庇護のための支払いに近い。
確かに、米国の輸出業者に英国市場に巨大なアクセスを与えはしなかったが、合意は英国にリスクを課すものである。英国がしきりに取引をしたがったことを考えると、トランプが今後更なる要求を持ち出さない保証はない。
この合意は、来年にかけて完全な貿易協定として仕上げられることが想定されているが、英国は今や弱い交渉ポジションに自らをおくことになった。トランプは交渉が彼の思い通りに行かないとこれらの譲歩を撤回出来る。
最も重要なリスクは英国自体に対するものではなく、グローバルな貿易体制に対するものである。合意は米国からのエタノールと牛肉の輸入に対する保護を縮小するが、他の諸国からの輸入には適用がない。これによって、英国は多国間貿易体制の根底にある「最恵国待遇」の原則を害することになった。
当局者は、広いパッケージの一部としてWTOのルールと整合的であるという信じ難い主張をしている。もし、他の諸国が騒ぎ立てたければ、WTOの紛争解決手続きがすぐにでも処理してくれるであろう。また、10%の一律関税に当面し続けることを容認することによって、英国は甚だしく逆進的な動きを正常なものとした。
欧州連合(EU)を離脱した際に英国が吹聴したことは、英国はより自由な貿易と多国間のルールを力強く能動的に主張する国になるということだった。EUの退屈な保護主義から解放され、WTOで創造的で触媒的な役割を果たすということだった。そして、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加盟することにより、世界の原動力である地域と貿易で結びつくということだった。
しかし、米国の圧力に屈し手っ取り早い取引に走ることにより、英国は他の諸国も同じことをするよう促した。最近、EUとTPPはルールに基づく貿易体制を守るために協力する取り敢えずの動きを見せた。中国、日本、EUは米国によって手っ取り早い合意に追い込まれることに抵抗している。