2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月27日

 中国は自身の条件で交渉のテーブルにつくことを主張して来ている。EUは米国に対する報復の標的の最新のリストを本日公表した。これらの努力は今や浸食されることになった。

 英国は政治的な選択をもちろん出来る。当面、英国はトランプの最悪の関税を何とか免れた。しかし、Brexit後の英国はルールに基づく国際貿易体制の揺るぎない錨になるとの約束は、今日、以前よりも弱く見える。

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具体的な合意項目

 この論説は5月8日に公表された米国と英国の合意について辛口の評価を書いている。その批判は正当なものである。

 合意は政治的な合意らしい。政治的な合意でも共通の文書はあってよさそうであるが、それもない。米側が公表した米側の5ページの文書はあるが(法的に拘束力のある合意ではないと書かれている)、英側が公表した文書は見当たらない。スターマーが成果を急ぐトランプの演出に協力して急遽公表に至った合意との印象を与える。

 合意の内容の詳細は省略するが、(1)自動車について、米側が10%の関税による10万台の輸入枠を設けること、(2)鉄とアルミについて、英側は関税が撤廃されると言っているようであるが、米側文書には今後の検討を経て譲許税率による一定の輸入枠を設けると書かれており、正確なことは不明、(3)通商法232条(安全保障関連)調査の対象となっている医薬品(自動車に次ぐ英国の対米輸出2位の品目)について、米側が英国からの輸入に優遇措置を与えるべく配慮すること、(4)牛肉について、双方が相互に1万3000トンの無税枠を設けること、(5)ビールの醸造に使う米国のエタノールについて、英側が14億リットルの無税枠を設けること、が具体的な合意項目である。

 10%のトランプの一律関税は維持される。他方で、塩素処理チキンとホルモン処理牛肉の輸入禁止措置という、米側がかねて問題視して来た敏感な問題を英国は当面回避し得たようである。ただし、米側文書には、農業産品のアクセス改善のための交渉が引き続き行われることが書かれている。

 米側文書に記載はないが、ラトニック商務長官は、英国が100億ドル相当のボーイングの航空機を購入すること、他方、米側はロールス・ロイスのジェットエンジンに対する関税を免除することを語っている。これも合意を構成する要素であったと推定される。


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