しかし、90日の期限内に米国が満足する合意が得られるかは疑問で、再びトランプは関税の脅かしを掛けるプロセスを繰り返すかもしれないが、その時点では既に景気後退や関税によるインフレ効果等の弊害が顕在化している可能性もあろう。
交渉の〝勝者〟は?
今回の結果を米中いずれが地政学的により効果的にアピールできたかといえば、それは中国に軍配が上がるのではなかろうか。中国がトランプ関税に屈することなくこれを跳ね返したという宣伝は効果的であろう。
中国は、今後自由貿易を擁護する存在として、また、地球温暖化防止の推進役として、貿易パートナーの多様化を図る欧州やアジア諸国との関係を強化し、グローバルサウスにおける求心力を高めることにも利用するであろう。
5月13日に北京で開催されたラテンアメリカ諸国首脳との対話の場で、習近平は、「貿易戦争に勝者はいない」と述べ「覇権主義は孤立を招くだけだ」と強調し、経済協力のための新たな融資枠も提示した。他方で、米国は、米国は世界中から長年搾取されてきたとのトランプのオブセッションの下で、同盟国を含め多くの国と延々と関税交渉を続けることになる。
また、今回の問題で、中国は、関税を武器とする米国に一方的な譲歩をしなくて済み、経済的相互依存関係に基づく米国対応に自信を深めた可能性もある。そのように中国が認識すれば、今後の90日の交渉でも譲歩することは余り期待できないだろう。
90日間の交渉で米国が何を目指すのか、必ずしも明確ではなく、トランプが満足できる合意に至るかは不透明である。しかし、二国間で貿易および経済に関する協議メカニズムの設立が合意されたことは、対話により問題解決を目指す意思が具体的に確認され、二国間の貿易紛争を一定の管理下に置くことになり、とりあえずではあるが相対的安定をもたらすものとして評価できよう。

