住宅価格の高騰が止まらない。もともと先進国では、低金利や都市化の進展を背景に住宅価格が1990年代後半以降、日本では2010年代後半から上昇する傾向にあった。
しかし、コロナ禍を経てさらなる住宅価格高騰が起こり、世界各国でインフレ対策として金利を急激に引き上げた結果、大都市で手頃な住宅を購入できない「アフォーダビリティー・クライシス」という現象が起きている。
アフォーダビリティーとは、国民の住宅取得、賃貸に対する相対的なアクセス可能性であるが、それが困難になっていることを我々はもっと深刻に捉える時期に入ったと受け止めるべきであろう。
ただ、日本の住宅価格/所得の比率は、23年時点で経済協力開発機構(OECD)平均よりは低く、日本が特に深刻な問題を抱えているわけではない。さらに住宅価格の高騰は大都市を中心に生じている現象であり、日本全体として深刻な状態にあるというわけでもない。しかし、近年の住宅価格の上昇は急激であり、東京都ではマンション価格が平均1億円を超えるなど、都心で暮らすことのハードルは高くなっている。
そうした中で、東京都では25年度より、主に子育て世帯やひとり親世帯を対象に、手頃な価格で設備の整った「アフォーダブル住宅」を供給する事業を打ち出した。都と民間で100億円ずつ出資して総額200億円規模の官民ファンドを創設し、出資者の利益を抑えることで家賃を安くする計画だ。
筆者はアフォーダブル住宅の供給には賛成だが、子育て世帯の低中所得者層を対象とした政策としては、200億円を投じても一部の人しか恩恵を受けられない。都が予算編成中に例示した空き家活用のファンドは、40億円の出資により市場価格の約8割の家賃で80戸程度を貸すというものだ。単純計算だが、住宅1戸の供給にかかるのは5000万円、総額200億円の出資で供給できるのは400戸程度だ。限られた資源をもっと有効活用すべきだろう。
それだけではない。東京がグローバルな都市として機能し続け、日本が国際競争力を維持するためには、「高学歴」「アイデア豊富」「リスクを厭わない」などの特徴を持つ「イノベーションを起こせる人材」を集積させる必要がある。