東京都は2024年夏、水道の基本料金を4カ月間にわたって無償化する方針を打ち出した。猛暑と物価高騰に対応する生活支援策として、小池百合子知事は「都民が安心して暮らせる環境を整える」と説明している。
今回の措置は「基本料金」のみが対象であり、実際に使った分に応じて課される「従量料金」は減免の対象外である。また、水道事業は全国的に基礎自治体や広域事務組合が担うことが多い。新型コロナウイルスの流行や物価高騰を受けて、市町村単位で料金を一部減免した例はあるが、都道府県単位での減免は極めて珍しい。
都によれば、1世帯あたり4カ月で約5000円相当の負担軽減になるとされ、エアコンの使用をためらわずに済むようにすることで、熱中症のリスク低減を図るという意図がある。
しかし、本施策の政策効果、制度設計、財源構造、他自治体への影響を精査すると複数の課題が見えてくる。
減免額とエアコン使用料の比較
本施策はエアコン使用を促すことで熱中症リスクを抑えようとする意図があるが、支援対象は水道代であり、冷房に直結する電気代ではない。
今回の政策が「エアコン使用の促進」を目的とするならば、支援すべきは水道代より電気代であるはずという声もある。だが、電気は東京都の所管ではなく、都が直接補助を行うには制度上の制約がある。また、国が電気料金の補助制度をすでに実施していることから、都独自の補助は二重補助の問題を生じさせるおそれもある。
その点、水道は都が直接運営する公営企業であり、制度設計上も手をつけやすい対象である。財源も都の一般会計から支出可能で、行政として即時的な施策に用いやすいという事情が背景にあると考えられる。