東京都が供給する水道の基本料金は、給水管のサイズによって異なるが、13ミリ管で860円、20ミリ管で1170円、25ミリ管で1460円(いずれも月額、税抜)であり、4カ月間の免除で軽減される額は3440〜5840円程度にとどまる。一方で、エアコンの稼働による電気代は、家庭の広さや利用時間によっては月に5000円〜1万円を超えることもある。
さらに、基本料金の減免は、同じ世帯人数でも使用量が多い家庭ほど恩恵が薄れる設計となっており、世帯構成や生活スタイルに応じた公平性を担保しにくい構造的課題も抱えている。水道料金の軽減措置は、すでに生活保護受給世帯などに対して実施されており、今回の施策による追加の恩恵は乏しい。むしろ、既存制度の対象から漏れている「準困窮層」こそ支援の手が届くべきであった。
財源の誤解を招く構造
今回の施策は、水道局の特別会計ではなく、都の一般会計(税金)からの支出として実施されている。2025年度(令和7年度)6月補正予算案では「水道料金に係る基本料金無償臨時特別措置」として約358億円が計上された。
「水道料金が無償になる」というメッセージが先行することで、水道事業に余裕があるかのような誤解を与える懸念がある。だが、実際には老朽化した配管の更新、地震対策、浄水施設の改修など、将来的に莫大な費用を要する分野である。
東京都の水道経営は現在のところ他都市より健全に見えるが、将来的な投資と、減少傾向にある料金収入とのギャップをどう埋めていくかという課題に直面している。人口減少や節水機器の普及により水使用量は今後も減少が見込まれ、中長期的な視点での財政戦略が不可欠である。
より効果的な中長期施策の可能性
恒常化する猛暑への対応には、構造的な投資が必要である。気候変動により、日本の夏はもはや一時的な異常気象ではなく、恒常的な酷暑が続く状態となっている。熱中症対策を語るのであれば、短期的な料金減免ではなく、より本質的で構造的な施策に移行すべき時期に来ている。
猛暑への対応は本来、国の気候変動政策の一環として推進されるべきであるが、それだけでは不十分である。特に都市部ではヒートアイランド現象などの影響も重なり、自治体ごとに固有の対応が求められる。東京都が本当に猛暑対策と生活支援を進めるのであれば、以下のような施策に予算を投じるべきである。
・断熱改修支援:築年数の古い住宅の窓や外壁、床の断熱工事に補助金を出すことで、冷房効率を向上させ、電力負担も軽減できる。
・クーリングシェルター整備:図書館や公民館、駅などの公共施設を避暑空間として整備することで、エアコンを持たない人々への支援となる。
・高齢者エアコン設置支援:都内の生活保護・住民税非課税の高齢者世帯(約36万世帯)に対してエアコンを無償設置する施策。
・再生可能エネルギー導入:都営住宅や公共施設に1万基の太陽光発電と蓄電池を導入できれば、災害時の電源確保と光熱費削減の両立が可能となる。
これらは初期投資こそ大きいが、健康リスクの低減や将来的な光熱費の削減にもつながり、国の補助制度との併用により都の財政負担も抑えられる可能性がある。
