自治体間格差と都市集中の加速
全国62市で構成される中核市市長会は24年5月、東京都の水道料金無償化を受け、「財政が豊かな自治体だからできる」(新会長に選出された長内繁樹大阪府豊中市長)と指摘し、自治体間格差の拡大を懸念する声を上げた。
実際、全国では人口減少と施設老朽化により水道料金の値上げを決定する自治体が相次いでおり、24年には82事業者が値上げを実施。値上げ幅は最大で4割に達した例もある。今後も耐震化や更新投資により、料金の引き上げは避けられないとみられている。
横浜市は、東京都が今夏に一般家庭の水道基本料金を無償化する方針を決めたことを受け、市水道局で同様の措置を行った場合、71億円の減収が見込まれることを明らかにした。現時点では、無償化しない方針であるとし、東京都との財政力の差をにじませた。
岐阜県の江崎禎英知事も5月27日の定例記者会見で、「人が東京に集まる流れを加速するのはいかがなものか」と述べ、東京都の施策が一極集中を助長する懸念に同調。水道料金については「ただにはできないが、水道料金を安くできるか、関係部局で勉強を始めている」と述べた。
東京都のような象徴的自治体がこうした無償化を進めることは、他自治体にも同様の対応を求める市民の声を高め、持続可能な財政運営を難しくする圧力として作用する可能性がある。
東京都は税収が好調に推移していることを背景に、高校授業料や保育料、公立小中学校の給食費の実質無償化でも先行しており、これまでも周辺自治体が格差を問題視してきた経緯がある。今回の水道料金無償化についても、都市への人口集中を後押しすることにもなりかねない。特に若年層や子育て世帯にとって、コストの安い都市の魅力は高く、国が進める地方創生や東京一極集中是正の流れに逆行する結果となる。
人口集中を享受する東京都だが、負の側面にも目を向けるべきだ。東京という超高密度都市が抱える熱リスクやエネルギー需要の集中は、全国に先行する課題でもある。都市における猛暑対策の先進モデルを構築し、それを他都市にも展開していく視点が求められている。
