2025年12月6日(土)

Wedge OPINION

2025年6月18日

 日本では、「住宅用地」というだけで固定資産税が6分の1に軽減される特例措置がある。日本全体で住宅の総量が足りない時代には、適正な措置であったかもしれない。しかし、今日本の大都市で起きていることは、イノベーションや大都市機能の維持を担う人材が、地域に居住できず〝疎外〟されている状況ではないか。

 どのような住宅の利用形態にインセンティブを与えるのかについて、ターゲットを絞る必要がある。一例として、需給がひっ迫している地域の空き家一般をその措置の対象外にすれば、住宅の供給は増えるだろう。神戸市が導入を検討している「タワマン空き部屋課税」も一つのアイデアとしては興味深い。

東名阪だけでなく
札仙広福も対策を

 住宅価格の高騰は全ての国民の住宅の取得能力を低下させる。バブル経済、その崩壊後には、実勢よりも高い地価での取引について、その是正を勧告できる非常に強い規制が導入されたり、住宅ローン減税など住宅取得に対する大きな税制上の支援が行われたりした。また、公平性を実現するために低所得者への公共住宅供給を増やすべきという主張もある。

 今我々が直面しているアフォーダビリティー・クライシスとは、そのようなマクロ経済の問題や、公平性を実現するための「再分配の問題」として捉えるべきではない。起こっていることは、産業構造が労働集約型から知識集約型産業に移行し、大都市化することによって発生した問題である。やらなければならないのは、大都市本来の機能を維持するために行う政策だと考えることが適当だろう。繰り返しになるが、東京都の政策にはその視点が抜けていると言わざるを得ない。

 大都市は、市町村を超えて、場合によっては都道府県を超えて広がっている。つまり、東京都だけでアフォーダビリティーの向上に取り組んでも、都市機能を維持する効果は限定的だ。東京で働く労働者は神奈川や千葉、埼玉などの「東京大都市圏」(1都3県)から通勤してくる人が多いからだ。神奈川や千葉、埼玉のアフォーダビリティーの向上は、東京の生産性向上に貢献することを明確に意識すべきだろう。1都3県でファンドをつくってお金を出し合い、アフォーダビリティー向上に取り組んでいくような「面」での対策も視野に入れるべきだ。

 公営住宅の建て替えも一案だ。米国には「HOPEⅥ」というモデル事業がある。低所得者だけが住む公営住宅のコミュニティーは、犯罪率の高さや教育の質の低さなどが課題となるが、同事業は公営住宅を除却、建て替えて、低所得者だけでなく中所得者向けの住宅も供給し、Mixedなコミュニティーをつくっていくものだ。日本もこうした視点を取り入れるといいだろう。公営住宅は都道府県や市町村がその整備や管理を行っているが、地方都市も含めて都市圏の機能を維持するためには、行政区域を超えた事業や管理の仕組みが導入される必要がある。

 日本経済を強靭化するためには、東京以外の大都市の機能を維持・強化していくことも不可欠だ。東京や名古屋、大阪という三大都市に加え、札仙広福(札幌・仙台・広島・福岡)についてもアフォーダビリティーを高める必要がある。どの都市も高スキル人材だけでは都市機能を維持できない。EWが不可欠だ。東京が直面している問題は、他の都市にとっても「明日は我が身」であることを認識しておくべきだ。

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Wedge 2025年6月号より
日本のコンテンツが世界へ羽ばたく時
日本のコンテンツが世界へ羽ばたく時

日本のマンガやアニメに向けられる視線が熱くなっている。世界での熱狂を背に、政府は「新たなクールジャパン戦略」として、コンテンツ産業を中核にすえた〝リブート(再起動)版〟を示した。ただ、人々を魅了するコンテンツはお金をかければ生まれるものではない。今度こそ「基幹産業」として飛躍するために、必要な戦略を探ろう。


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