2025年12月6日(土)

Wedge OPINION

2025年6月18日

 そうした高スキル人材は、すでに十分な所得を得ているかもしれない。または、安定的なキャリアパスについているかもしれない。そうした人たちが、イノベーションが起こる場所、例えば都心部に容易にアクセスできる場所に居住することは難しくない。しかし、金融機関が将来得ることのできる所得を十分に評価できない場合は、若手の高スキル人材であっても十分なローンを組むことができないかもしれない。

 もっと重要なのは、東京はこのような高スキル人材だけで成立しているわけではないということだ。東京の経済活動や生活を支えるためには、公共サービスを提供する人たちや医療・福祉などの「エッセンシャルワーカー」(EW)が不可欠である。アフォーダビリティー・クライシスはこれらの人たち、特に若いEWの住む場所を大きく制限する可能性がある。

 下の図は、東京大都市圏の地域ごとにEWの代表である34歳以下の医療・福祉就業者の学歴別の比率を示したものだ。特別区部の医療・福祉関係の就業者は大卒以上が6割、短大以下が4割で構成され、それ以外の1都3県ではちょうどその比率が逆転する。

 都心5区に限れば、大卒以上が75%、短大以下が25%と大きな格差がつく。現在の都心部の住宅価格高騰はこのような傾向を、極端な形で進める可能性がある。高スキル人材以外の医療・福祉関係の就業者がアクセスできなければ、その地域の機能は維持できない。そのような事態は回避すべきだろう。

 つまり、東京都が200億円の予算でアフォーダブル住宅を供給するうえでは、都市機能を維持する役割を担うEWに対象を絞るべきだ。

 実際に、東京と同様、グローバル都市のロンドンは大都市の都市機能を維持する「キーワーカー」と呼ばれる、医療・福祉、教育関係などの就業者のアフォーダビリティー改善に取り組んでいる。

 具体的には、これらの人々に、住宅取得のための無利子融資を行ったり、一定規模以上の住宅開発をする際に賃料の安い住宅を供給する義務を事業者に課したりするなどの財政支援を行っている。

投資家が持つ空き部屋を
市場に戻すために

 もちろん、EWだけではなく、低中所得者のアフォーダビリティーを向上させるためにできることは全てやるべきだ。その一つの策として、住宅供給を増やすために「空き家」を市場に戻していくことがあげられる。現在の空き家対策は、管理不全の「放置されている空き家」のみを対象としているが、都内では外国人投資家が投資物件やセカンドハウスとして物件を所有するケースが多く、そのような使用頻度の低い住宅需要が住宅価格高騰の一因だという指摘もある。

 フランスやカナダの住宅需要がひっ迫している地域では、放置された空き家だけではなく、投資家が保有し現に使用されていない住宅にも「アンダーユースドタックス」という空き家税が課されている。


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