2025年12月15日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月4日

 中国は中南米を市場と投資対象に加え原材料の供給元として益々重視していると言われる。中南米地域は、国連等の国際機関における中国への地政学的支持を得る上でも重要だ。中国は自身をグローバル・サウスの指導者と位置付けている。

 習近平は中南米に100億ドルの借款を約したが、これは、トランプが国際援助や民主化支援、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)といった報道機関を削減する中で行われた。習主席はサイバー安全保障、対テロ対策、反腐敗対策、薬物規制、国際的組織犯罪との闘い等の多くの安全保障分野での協力も約した。習は法執行訓練や資機材支援を通じて各国の安全と安定のための努力を支援するとも述べた。

 習はこれ以外にも、地域の5カ国からのビザなし渡航を含む支援策を公表した。中国はここ数カ月間、多くの欧州諸国にもビザなし渡航を拡大している。

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米国防衛は「東西」から「南北」に転換か

 米国がパナマ運河の管理等の主張で「中国的戦狼外交」をやり、一方的に「相互関税」をかけ、国際社会で信頼と友人を失う中、中国は「中国こそが最も信頼できるパートナーだ」という言説を世界的に展開している。驚くことに、トランプ関税発表後の4月9日から23日「Alliance of Democracies」が世界100ヵ国11万1273人を対象に意識調査を行ったところ、79%の国が「アメリカよりも中国に好感を持っている」と回答している。

 最初は、中国の裏庭に当たる東南アジア諸国歴訪だったが、今回は、北京で中国と中南米カリブ海諸国共同体との首脳会合を行い、米国の裏庭に切り込んだ。

 米国の対外的防衛ラインは、伝統的には第一列島線だが、トランプ政権になって以降、それが後退しているとの見方がある。米国はグアム、マーシャル諸島等の第二列島線に対する軍事的インフラ構築への投資を増やし米軍の前方展開を第二列島線まで引くのではないかとの見方もある。

 従来の米国の防衛に対する考えは、西は北大西洋条約機構(NATO)、東はアジアの二国間同盟という「東西」を軸としたものだったのが、今や北はグリーンランド、「ゴールデン・ドーム」に代表される米国本土防衛、パナマ運河、南米最南端のホーン岬が、トランプ政権の安全保障上の関心事項として良く言及されるので、「南北」に変更したのではないかとの見方もある。だとすれば、中南米諸国との関係強化を米国は進めるはずである。


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