実際、トランプ関税は、東南アジア諸国に比べれば、中南米諸国のものの方がずっと低い。具体的には、ガイアナ(相互関税率 38%)、フォークランド諸島(同 41%)、ニカラグア(同 18%)、ベネズエラ(同 15%)の4カ国が対象で、メキシコは国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置を課しているため、今回の関税措置は適用されない。ただしこれは、中南米では米国に対し貿易黒字を抱える国が少ないからである。
事実、米国向け輸出の割合があまり高くない(メキシコ 83.1%、コスタリカ47.3%、ニカラグア 39.4%、コロンビア 28.9%が例外的に高いが、それ以外は、ブラジル12.8%、アルゼンチン 8.0%を含めて、軒並み 10%代前半以下である。但し銅を輸出するチリは15.9%)。これは、資源などを中心に対中輸出の割合が大きいことを反映しているのだろう。
要は、米国は、貿易協定を有するメキシコを除けば中南米諸国に特別の配慮をしておらず、同諸国が中国依存を高めるのは不可避だろう。中国はクリーン・エネルギー、テレコム、AIといった先端分野での技術協力を提案したとの報道もある。正に、南北の軸の真ん中が侵食されるのであり、米国が真剣に南北を軸にしようとしているとは考えられない。
他地域で進む自由貿易協定
次は、米国以外の民主主義国が中南米との関係を強化する余地である。欧州連合(EU) は20年以上交渉を進めてきたメルコスールとの自由貿易協定を昨年末に合意し、現在欧州議会で承認手続きが進められているが、農業への影響を懸念するフランス等の加盟諸国の反対があり、承認の見通しは立っていない。
一方、トランプ関税発表後、フランスが呼び掛けて、メルコスールとの 自由貿易協定(FTA)に反対する各国の意見調整を始めたとの報道もある。トランプ関税が、他の地域の自由貿易に向けた連携を強めることになれば、それは良いことだろう。日本も出遅れているメルコスールとの交渉を始めるべきではないか。
