しかし、25年後となるとダイナミックな変化が起きる可能性がある。今、訪日観光客は年間1000万人で、観光庁はこれを東京五輪が開催される20年には倍増させる計画を立てる。そのトレンドで25年後(39年)の目標を設定すると年間5000万人というレベルになるかもしれない。現在、国を訪れる外国人観光客数がトップのフランスが年間約8000万人。米国、イタリアなどもそれに続く。日本が25年後に5000万人というのは荒唐無稽な数字ではない。
それくらいの水準になると、観光消費全体に占める日本人と外国人の比率は半々くらいになると予測される。こうなれば大きな構造転換が可能だ。諸外国はそれぞれ休暇時期が異なるので、観光業は年間を通じて需要が平準化されることになる。さらに、外国人観光客の少ない時期に日本人が分散して休暇を取れば、通年フル稼働の可能性も生まれる。
そんな都合のいい展開に? と思うだろうが、日本には旅館という切り札がある。この半世紀ほど、世界のホテル運営はコモディティー化してきた。名の通ったホテルはどこも快適な部屋と、いいサービスを提供し、ホテルごとの差異はなくなったと言っていい。これはこれまで旅行における消費者の最大欲求が安心安全で、世界中の主要ホテルがそれに応えようと努力してきたからだ。
ところが、世界中の大都市で安心安全がほぼ達成されると、旅行者はそれに飽きてきた。どの都市も同じではつまらない。次の段階として「その国、その土地らしさを体感したい」という欲求が台頭してきた。
ここに日本の旅館のチャンスがある。コモディティー化した世界のホテルの中で、唯一日本の旅館だけが異なった運営方法を提案してきた。今まさに消費者のニーズが日本の旅館に向いてきているのだ。オリジナリティあるおもてなしのできる日本の旅館は、世界の各大都市に最低1つずつはあっていいと私は思う。
16年、私たちは「星のや東京」をオープンさせる。いきなりニューヨークに出る前にまずは東京で成功させる必要がある。日本の生活文化を体験できるサービスで、コモディティー化した世界の一流ホテルと競争していく。
( 文・都築 智 )
■WEDGE5月号 創刊25周年記念特集 「25年後を見据えた提言」
英知25人が示す「日本の針路」
◎経済、企業
石黒不二代(ネットイヤーグループ社長兼CEO)「ネットが動かす未来のマーケティング」
浜田宏一(米イェール大学名誉教授、内閣官房参与)「“成熟した債権国”化する日本の今後の針路」
村上太一(リブセンス社長)「起業家育成へ教育・選挙改革を」
ポール・サフォー(未来学者、デジタルフォーキャスター)「シリコンバレーの強みは何か」
ヒュー・パトリック(米コロンビア大学名誉教授)「日本人よ もっと外の世界へ飛び出せ」
入矢洋信(トーヨー・タイ社長)「海外の事業は、まずはやってみる、やらせてみる」
千本倖生(起業家、元イー・アクセス社長/会長)「起業家は描きうるなかで最大の夢を持て」
◎政治、国際関係、安全保障
中西輝政(京都大学名誉教授)「25年後の米中と日本がとるべき長期戦略」
井上寿一(学習院大学長/法学部教授)「高まる“大統領型”首相待望論 将来の日本政治の姿」
ジェームズ・ホームズ(米海軍大学准教授)「軍事的ジレンマに陥る中国 日米のチャンス」
鈴木英敬(三重県知事)「地方分権の議論は発想が逆」
小谷哲男(日本国際問題研究所主任研究員)「太平洋を“開かれた海”へ “関与”戦略への転換」
山田耕平(レアメタルトレーダー)「草の根国際協力を国益に繋げ」
◎教育、人材活用、医療、司法
松田悠介(Teach For Japan代表理事、京都大学特任准教授)「日本の教育現場に課題解決能力の高い人材を」
菊川 怜(女優)「大学で学ぶということ」
駒崎弘樹(認定NPO法人「フローレンス」代表理事)「“イクメン”がデフォルト化している日本を創る」
亀田隆明(医療法人鉄蕉会・亀田メディカルセンター理事長)「日本は世界の医療産業国を目指せ」
山本雄士(ミナケア代表取締役)「さらば“ブラック・ジャック”名医論」
麻生川静男(リベラルアーツ研究家)「日本人のグローバルリーダーを育てるために」
久保利英明(日比谷パーク法律事務所代表弁護士)「世界に立ち遅れた日本の司法界 改革への3提言」
◎復興、観光、スポーツ、芸能、暴力団
星野佳路(星野リゾート代表)「25年後に大転換迎える日本の観光 旅館が切り札に」
宮本慎也(元プロ野球選手)「野球界に必要な地盤固め」
三遊亭圓歌(落語家/落語協会最高顧問)「古き良き“寄席”の笑い」
溝口 敦(ノンフィクション作家、ジャーナリスト)「衰微する暴力団、台頭する半グレ集団」
西本由美子(NPO法人「ハッピーロードネット」理事長)「福島浜通りへの帰還」
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