2025年7月17日(木)

トランプ2.0

2025年6月11日

 “敵国”からの大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎え撃つのに、予めミサイルが発射されるサイロの位置情報に加え、発射時刻も正確に迎撃側のコンピューターにインプットできることが大前提になった実験だったことを意味している。

 その後、最近に至るまで、米軍がクウェゼリン島以外の別の場所から事前予告なしに

 発射された標的撃墜実験に成功した事例は報告されていない。

 しかし、核戦争が勃発した場合、この種の実験結果だけでは対処不可能なことは明白だ。特に今日、ロシア、中国、北朝鮮などは特定基地の固定サイロからのミサイル発射実験のみならず、大型トラック、列車などから発射される移動式ミサイル開発にも乗り出していると言われるだけに、米国側にとって迎撃のための正確な発射時刻の事前探知のみか、予知不可能な発射地点からのミサイル飛来軌道計算も瞬時に行える確率はゼロに近い。

トランプが度外視している敵国の脅威

 さらに厄介なのは、おとりミサイル発射が大量に発射されたのち、続けて本物のミサイルが打ち上げられ、軌道に乗ったまま米本土に向け飛来し続けた場合、迎撃システムでの識別と対応がより一層困難になる点だ。

 そして、たとえ何千個もの大量の早期警戒衛星を宇宙配備し、飛来する“敵国”からのICBMを米本土接近前に自前のレーザー兵器衛星で撃墜できる技術の開発にこぎつけたとしても、最大の弱点は、海中発射弾道ミサイル(SLBM)への対処にある。

 特にロシアの場合、旧ソ連時代から米国太平洋、大西洋両岸に近い海域にまでミサイル潜水艦を潜航させる訓練を繰り返してきており、仮にキューバ沖合の海底からSLBMを発射すれば、5~6分で首都ワシントン、ニューヨーク、アトランタなどの主要都市を確実に破壊できる能力を備えている。

 敵国潜水艦の海中活動を監視する米海軍の「対潜水艦作戦」(ASW)能力は今日、一段と進歩しているといわれるが、ロシアの潜水艦も海中活動の際の騒音を極度に低下させる技術開発に乗り出しているだけに、“いたちごっこ”の状況にある。

 ロシア国内の基地から発射されたICBMが米本土に接近するまでに約30分かかるのと異なり、探知から迎撃までの余裕が2~3分しかないSLBMの場合、どんなに優れた迎撃システムの完成にこぎつけたとしても、全くお手上げだ。将来的にもそれは不可能とされる。

 トランプ大統領は「ゴールデン・ドーム」構想発表に際して「地球の反対側から、そして宇宙から発射されたミサイルを迎撃できる」と力説して見せたが、米本土に近いカリブ海に遊弋(ゆうよく)する敵国ミサイル潜水艦の脅威をまったく度外視しているのは驚くべきことと言わざるを得ない。

 このほか、早期警戒用の大規模な米軍静止衛星群を宇宙配備したとしても、相手国が将来的に対抗措置としてこれらの衛星を無能化するキラー衛星を打ち上げることも考えられ、その場合の対策が「ゴールデン・ドーム」構想の中に組み込まれているかどうかも不明だ。仮に想定内だとしても、今後5年や10年で対処できる見込みはない。


新着記事

»もっと見る