ワシントンのシンクタンク「戦略国際研究所」(CSIS)の軍事専門家の予測によると、開発コストは「1750億~2700億ドル」「完成までにおそらく10年程度」とみられ、米議会予算局の最新報告では「必要コスト1兆2900億ドル、完成年数20年」となっている。
また、宇宙軍事専門誌「Space News」最近号は、米議会の「ゴールデン・ドーム計画推進委員会」委員長を務めるティム・シーヒー上院議員(共和党、モンタナ州選出)が最近、演説会場で「システムが完成するとすれば、実戦配備までに何兆ドルもの予算が必要となる」と語った、と伝えている。
背景にあるレーガン政権の「戦略防衛構想」
宇宙配備のミサイル防衛システム計画についてはかつて、1980年代レーガン共和党政権当時に打ち出された「戦略防衛構想(Strategic Defense Initiative=SDI)」があった。俗称“スターウォーズ”と呼ばれ、冷戦体制下の仮想敵国ソ連に大きな衝撃を与えた。
筆者は当時、ワシントン特派員として、同構想について当局者たちとのインタビューなど精力的に取材した。
基本コンセプトは、早期警戒衛星で敵国基地からのミサイル発射に対し、地球周回軌道上の多数の衛星から発射したレーザー兵器または特殊弾丸で撃墜するというものだった。
開発費用として当時、米本土の核ミサイル・サイロ防衛に限定した「第一段階」だけでも1700億ドル、部分的都市防衛をめざした「第二段階」のために5400億ドル(いずれも当時の推定額)は最低必要と推定された。さらに敵国の宇宙配備対抗措置への対処も視野に入れた完全な宇宙防衛システムを完成させるには、その数十倍のコストが必要となるとみられていた。
結局、レーガン政権は、同計画「研究開発」の「研究」に3年近く取り組んだものの、実戦向け兵器システムの完成にはコスト、技術両面から幾多の高いハードルが立ちはだかっていることを理由に「開発」段階移行前に断念してしまったいきさつがある。
あれから30年以上も経過し、その間にIT、ロボット技術、情報処理能力などは格段に進歩したことは事実だ。トランプ大統領が、レーガン政権がいったん断念した宇宙ミサイル防衛システムの構築に再び乗り出したきっかけには、こうした時代的背景があることは間違いない。
しかし、多くの軍事科学専門家の指摘によると、めざましい技術の発展にもかかわらず、いぜんとして実現には極めて厄介な問題が立ちはだかっている。
実用に向けた致命的な欠陥
筆者はレーガン政権の1980年代後半、「SDI」関連取材の一環としてカリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地を取材したことがあった。同基地にはいくつもの迎撃用ミサイル発射台があり、主に8000キロメートル近く離れた太平洋上のクェゼリントン島から打ち上げられたロケットを米本土飛来前に撃ち落とす実験場として注目されていた。
実際の迎撃テストの際の取材は許可されなかったが、現地広報担当官から実験の具体的内容の説明を受けた。
それによると、迎撃テストプロジェクト開始当初の命中率は、10回中1~2回だったが、回を重ねるごとに性能も向上し、「数年間で3~5割程度」にまで改善されたとのことだった。ただ、取材を通じて、この種の実験には致命的な欠陥があることに気づかされた。
それは、すべての迎撃テストを通じ、クウェゼリン島から“標的”となる模擬ロケット弾が発射される際は事前に正確な「発射時刻」をバンデンバーグ基地担当官が把握しており、その時刻にピッタリ合わせてコンピューター・プログラミングで発射後の軌道、照準を決めているという事実だった。