この間に、政権が共和党から内政重視の民主党に交代すれば、信頼性が低く、しかも莫大なコストがかかる計画がただちにほごにされることは目に見えている。
世界的な対立をあおる懸念
こうした技術的難題に加え、最大の懸念は、ロシアや中国が米国の宇宙配備ミサイル防衛システムを突破するための核ミサイル追加配備、性能向上を余儀なくされ、地上のみならず宇宙における軍拡競争を加速させる点だ。
すでにロシア、中国、そして北朝鮮は、トランプ大統領による「ゴールデン・ドーム」構想発表後、「宇宙を戦場化する極めて危険な計画」だとして猛反発する声明を出している。
この点に関連して、「国連軍縮研究所」のパベル・ポドビッグ上級調査官は、ウォールストリート・ジャーナル紙に対し「自国防衛は幻想であり、実際にはこれら当事国がこれまで以上に何千発ものミサイル配備を余儀なくされ、世界中が最悪の事態になる」と警告を発している。
特に米露両国は、冷戦時代を通じ、相手国が先制核攻撃を仕掛けてきた場合、ただちに報復し相手国を壊滅させるのに十分なだけの核ミサイルを配備する「相互確証破壊戦力(mutually assured destruction=略称MAD)」を戦略の基本とし、曲がりなりにも一定以上の軍拡に歯止めをかける核軍縮に取り組んできた。
しかし、「ゴールデン・ドーム」開発がもし本格化した場合、こうした核軍縮レジームは終焉を迎える危険もはらんでいる。
結論として言えることは、核ミサイル防衛システム計画は、技術的にも“絵にかいた餅”であるばかりか、大国間の軍拡競争をあおるだけであり、米国も含めた当事国にとって安全確保の近道は、核軍縮への真剣な努力の選択しかないということになる。