2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月16日

 「蜘蛛の巣」作戦は、ウクライナのパトリオット防空システムの弾薬が不足している状況を補うための、鮮やかで大胆な作戦だった。ウクライナは、単に飛行するロシア製ミサイルを撃墜するのではなく、ミサイルを発射した航空機が駐機している間に無力化する方法を考え出した。ウクライナは敵よりも常に勇敢で熟練していることを示したのだ。

 トランプ大統領は、ロシアによるウクライナ民間人への空爆を非難しているが、何ら対策を講じていない。ウクライナは自らの手で事態を収拾した。

 無人機による攻撃は、戦略的リスクを高め、ロシアの報復を誘発することは間違いないが、トルコで両国が再び協議を始めようとしているこの時期に、プーチン大統領を真剣な交渉へと説得するために必要な、まさに高圧的な戦術である。ウクライナは自らの行動を通して敗北を拒否し、戦い続けるだけの資源を有していることを示している。

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ドローン攻撃がロシア軍に与えた被害

 本件記事の通り、ウクライナ戦争はドローンによって戦争の様相が大きく変化した。が、今次攻撃については現時点においてロシアの被害の程度やウクライナが実際どのように作戦を実行したか等について、必ずしも全体像が明らかになっていない。とりあえず6月3日までの公開情報等でわかる範囲で、事実関係の確認と取り敢えずの評価を試みたい。

 今回のドローン攻撃がロシア軍に与えた被害について、作戦を実行したウクライナ保安庁は6 月2日、ドローン攻撃はA-50、Tu-95、Tu-22M3、Tu-160 を含む 41機の航空機に命中し、ウクライナは全体として、戦略巡航ミサイル搭載機の34%の「無力化」に成功したと述べた。他方、ロシアは、ドローンによる「テロ」に関し、「すべては撃退」されたが、「数機の航空機」が「炎上した」とした。

 多くの衛星写真や動画等に基づく被害評価を含め、関連情報を総合すれば、「すべて撃退」したとのロシアの説明は論外としても、戦略爆撃機の34%を「無力化」したとするウクライナの主張も、さらなる精査が必要であろう。衛星写真や動画から現時点で確認できるのは、損害の全てを合計しても戦略爆撃機については 14 機程度で、ウクライナの言う 41 機の半分にも満たない。何らかの損傷を負わせたことは確かだろうが、修復可能な物も含まれているだろう。

 今次攻撃の直接の狙いは、ウクライナに対するミサイル攻撃のプラットフォームとしてのロシアの爆撃機と関連施設の無力化である。実際、6月1日以降、ウクライナ全土にわたる大規模なミサイル攻撃は行われていない。ただしドローン攻撃や地上発射ミサイル等による攻撃は抑えられておらず、実際6月3日にはロシア国境に近いスムィに対する多連装ロケット(MLRS)による攻撃、また同日チェルニヒウでもドローン攻撃が行われ、死傷者を出している。


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