2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月16日

 仮にウクライナの言う通り、ロシアの戦略爆撃機の34%を無力化したとすれば、一般に兵器は「実戦・修理・訓練」の三つに分けて3分の1ずつ使用するのが通常であるので、ロシア軍の戦略爆撃機の使用はこのサイクルが狂うことになる。34%という数字がかさ上げされたものであるとしても、今後ロシアは戦略爆撃機の生産計画、残されたアセットの運用指針、基地の防護態勢の見直し等、戦力全体の運用の再検討を余儀なくされる。

 また今回の攻撃で最も注目されるのは、ウクライナから 8000キロメートル(km)も離れるアムール州のウクラインカやイルクーツク州のベーラヤの戦略爆撃機基地までを攻撃しかつ成功していることである。ロシアには3つの戦略爆撃機基地があり、今回はもう一つの基地であるサラトフ州エンゲルス空軍基地は対象とされていない。

 実は同基地はウクライナに比較的近く(国境から約670km)、これまで既に何度かウクライナの攻撃を受けていて、ロシア軍は爆撃機をしばしば遠方のベーラヤやウクラインカに移動させていたとみられていた。今回の上記2基地への攻撃は、防空体制が強固に組まれていると思われるエンゲルス基地を避けるとともに、戦略爆撃機の「避難所」を塞ぎ、ミサイル攻撃をより効果的に抑えることを狙ったものと思われる。

日本やヨーロッパへも影響

 以上のようなロシアの戦略戦力の削減は、当然ながら米露あるいは北大西洋条約機構(NATO)対ロシアというグローバルな力関係に影響を与えることになろう。戦略爆撃機の数的変動は、今後の米露間の戦略兵器削減交渉にも影響するかも知れない。

 また、今回攻撃対象となったベーラヤとウクラインカ空軍基地に配備された戦略爆撃機は、沖縄、グアム、ハワイ等を射程内に含み、しばしば日本周辺を飛行するツポレフ戦略爆撃機もこれら基地から発進することが多い。ウクライナがこれらに対する攻撃能力を発揮したことは、わが国にとっても重要な意味をもつものである。

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