2025年7月13日(日)

Wedge REPORT

2025年6月19日

 林野庁が6月3日に発表した『令和6年度森林・林業白書』にも保持林業が紹介されている。また白書の特集テーマは「生物多様性を高める林業経営と木材利用」。これまで林野庁は、林業地の生物多様性について触れるのは避けがちだと思っていたから、ちょっと驚きだった。

 日本林業の「同一樹種の苗木を一斉に植えて樹齢も揃った人工林を作り上げ、一斉に伐採する」手法は、明治期にドイツから輸入した林業理論に基づくが、肝心のドイツではすでに止めている。今では針葉樹と広葉樹を混交させた森づくりを進め、皆伐も原則禁止だ。それなのに日本はなかなか変化させなかったのだから、100年に一度の林政大転換になるのかもしれない。

世界的な風向きに対応

 なぜ、林業にも生物多様性が求められるようになったのか。

 やはり地球環境問題が大きな課題となってきたからだろう。1992年のブラジルで開催された国連環境開発会議(地球サミット)では、生物多様性条約と国連気候変動枠組条約の両方が採択された。気候変動(とくに地球温暖化)と生物多様性は互いに影響し合っているから、一体的に取り組むことが重要とされたのである。

 ところが日本では気候変動対策が優先され、森林も二酸化炭素吸収源として強調されることが多い。風向きが変わったのは、2022年の生物多様性条約締約国会議以降だろう。ここで生物多様性の減少を止め、反転させるための行動を「ネイチャーポジティブ」と名付けられて、急速にクローズアップされるようになった。

 具体的には、30年までに陸と海の30%以上を保護地域もしくはOECM(保護地以外で生物多様性を保全する地域)にする「30by30」を目標に掲げた。日本も賛同したが、国土の約7割が森林で、その4割が人工林だ。つまり林業地をある程度「ネイチャーポジティブ」にしなければ「30by30」を達成できない。だから林業も変えなくてはならないという認識が強まってきたのだろう。

 23年3月に「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定し、生物多様性保全を重視した農林水産業を推進するとした。そこで森林・林業白書にも特集が組まれたのだろう。白書には、生物多様性を高める林業の事例をいくつか掲載している。

 たとえば保持林業のほかに生育段階の異なる森林をモザイク状に配置する方法や、森林を針葉樹と広葉樹を混ざった状態に仕立てたうえで皆伐せず抜き伐りや択伐をする林業もある。各地で民間や自治体主体で試みは行われている。

流域レベルでの多様な森林の配置の模式図(令和6年度森林・林業白書)

 ただ技術的課題があったり、森づくりからやり直さねばならないなど、すぐに実行できない。その点、保持林業は従来の皆伐主体の林業の延長線上に行える。


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