前回「〈いまだ続く国有林の木材生産=林業優先主義?〉忘れちゃいけない森林の多面的機能、相次いだ自然保護側とのボタンの掛け違え」まで、国有林の自然保護対策を紹介してきたが、全国の森林の3分の1、国土の5分の1という広大な自然環境資源を有しながら、その政策の軸足は常に林業に置かれていて、環境保全にシフトすることはなかった。役人的に、それは環境省の職務だからと言ってしまえばそれまでだが、そうすると国立公園など自然公園内の国有林を環境省へ移管するという問題が常に付きまとう。
それでいいではないかという意見もあるが、現地でそのような線引きをしても、森林自体に境目があるわけではなく、グラデーションをかけたようなものなのだ。白黒をはっきりさせると、境界領域において、融通の効く対策をとりにくくなる。
例えば、自然公園界ぎりぎりまで皆伐してしまうような事態になれば、公園機能は著しく損なわれるだろう。単一所有を維持した上で、環境省と林野庁で協議しながら対策を講じた方が効果的・効率的であると思う。
そうした中で、唯一林野庁側の発案でできた自然保護策が、緑の回廊(コリドー)の設定である。しかもユニークなのが青森営林局(現・東北森林管理局)という地方部局の独自の取り組みだったことである。
このようなボトムアップ方式は明らかに役人の生態に反するが、通常のトップダウンでは対応できない背景がそこにはあったのである。
日本版コリドーとは
まずコリドーとは何だろうか。野生生物の生息地間を結ぶ、野生生物の移動に配慮した連続性のある森林や緑地などの空間をさす生態学の用語である。
主に動物の移動に際して、帯状の森林が天敵から遮蔽し、水や食料の供給源となる。そのような機能を果たす森林帯を保全したり、あるいは造成してやれば、広域的な種の交流が可能となり、種の保全に役立つことになる。
