東北地方の自然保護活動家は早くから森林のこの機能に着目して、奥羽山脈などにグリーンベルトいう名のコリドーを提唱していた。彼らの多くは、白神山地に代表される原生的なブナ林の保全が根っこにあって、それらをコリドーでつなぎたいと考えていたのだ。
しかし、図1を見てもらえばわかるように、東北地方の森林は広大でそれ全体が一かたまりのコリドーと見做すことができ、野生動物たちはその中を自由に行き来している。ここにグリーンベルトをわざわざ取り出す必要性が見いだせるだろうか。たとえば、平原部に残された森林をつないでコリドーとするなら問題はないが、森林地帯にわざわざコリドーとして森林帯を区画することには意味がない。
ところが、東北地方における問題は、人工林化が進んで原生的なブナ林等が分断され、孤立化してしまったことにある。植物は動物のように移動することはできないから、植物の孤立化はより深刻な事態と考えられた。
植物種の遺伝子の交流は、花粉の飛散や種子の散布によって行われるので、同質の森林が連続している方が望ましい。それならば、一定の幅の森林帯を区画して、その中を自然の状態に近い植生にして保存しようと考えたのである。
具体的には、人工林を伐採して天然更新させることによって天然林へ回帰させるのである。考えてみれば、これは立派な林業であり、国有林の業務である。保護中心の環境省ではなかなかできない仕事ではないか。つまり、原自然への速やかな復元は、国有林だからこそ果たせるのだ。
コリドーを区画するのに好適な奥羽山脈の脊梁部(せきりょうぶ)は、北は青森県の八甲田山系から南は宮城県の蔵王山系まで全長400キロメートル。そのほとんどが青森営林局の所管する国有林なので、設定もその後の管理も青森営林局が一元的に行える。
難しい守旧派対策
ふつうの役所だったら、この理屈で乗ってこないことはないと思う。林業の範疇だし、ライバルの環境省は出し抜けるのは痛快だし、いつも国有林を目の敵にしている自然保護団体とは仲良くできそうだ。何より天然林の伐採で悪名高い国有林が自然保護を行い一躍正義の味方になれるのだ。
ところが、青森営林局の内部の反応は芳しくなかった。木材の伐採・販売を担当する事業部の反対は当然としても、コリドーの設定を担当する計画課の直属の上司である森林管理部長は反対だった。
人工林を天然林に回帰させるのは、「これまで林野庁が推進してきた人工林主体の森林整備を否定するものだ」と言うのである。まさにガチンコだ。