林業と聞けば、山の木を全部伐採するシーンを思い浮かべる人も多いのではないか。そんな伐採方法を皆伐と呼ぶ。途中で間伐などを施し、最後に全部伐るから主伐と説明されることもある。日本の林業は、基本的に生えている木を一斉に伐採し、その跡地に一斉に植林、それが育つとまた一斉に伐採……というサイクルで回すのが一般的だ。
ところが皆伐であっても、一部の木を残す林業が注目されている。しかも残すのは広葉樹、いわゆる雑木中心だ。
これまで植林木の邪魔だと除かれる(除伐)ことが多かったのに、むしろ積極的に残す。こうしたやり方を「保持林業」と言う。すでに北欧や北米では広がりを見せている新たな林業の手法だ。
「生物多様性」に寄与
林地には、人の役に立つ木(植林木)だけを育てた方が成長を良くなると考えられてきた。また同一樹種同一樹齢の森にする方が、植えるのも伐るのも作業効率が良くなる。
また皆伐すれば、一度に同じレベルの木材を大量に収穫できる。つまり経済性も高いのだ。不要な木々を残すのは手抜き作業と感じられていた。
ところが、それでは森林生態系が脆弱化して持続的ではない、気象災害や病虫害に弱い森になってしまうと指摘されるようになった。
また皆伐すると森林自体がなくなるうえに、日光や降雨が地表を直撃するため乾燥が進んだり土壌が流亡されたりする。環境が激変することで、そこにいた野生鳥獣から昆虫、微生物までいなくなるため、生物多様性が一気に劣化する。
仮に伐採跡地にすみやかに植林しても、小さな同じ樹種の苗木ばかりでは生息できない生物は多い。伐採によって破壊される多様な生物のいる生態系を復活しやすくする方法として取り入れられたのが、伐採時に一定の割合で立木や枯死木を残しておく方法だったのである。