2025年12月5日(金)

終わらない戦争・前編沖縄

2025年6月21日

 佐古さんは言う。

 「人口比では沖縄は日本の1%です。民主主義は、多数決で意思決定がされますが、99%の多数派が少数派の上でずっと胡坐をかき続けている状況は果たして本当に民主的と言えるのでしょうか。実は沖縄から民主主義の有り様を、国家の有り様を問うているのです」

際限なく広がる不条理な世界

 佐古さんといえば「スポーツキャスター」の印象を持つ読者もいるのではないか。

 1988年にスポーツ担当のアナウンサーとしてTBSに入社後、94年に報道へ移り、95年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件を伝え、麻原彰晃元死刑囚逮捕の現場からリポートし続けた。

 沖縄に強い関心を持つきっかけになったのは、96年からレギュラー出演した『NEWS23』だ。朝日新聞記者時代、日本復帰前の沖縄で特派員を経験した筑紫哲也さんの影響を受け、四半世紀、沖縄に通い続けている。

 「『沖縄に行けば日本がよく見える。この国の矛盾がいっぱい詰まっている』。筑紫さんのこの言葉が今でも忘れられません。沖縄を訪れると、不条理な世界が際限なく広がっています。その声を少しでも届けたいという思いです」

『太陽(ティダ)の運命』©2025 映画「太陽の運命」製作委員会

 戦後、日本が高度経済成長を遂げた一方、米軍統治下の沖縄はその恩恵を受けられず、72年の日本復帰後も基地負担を一身に背負わされてきた。

 「『沖縄問題』と言われることが多いですが、決して沖縄だけの問題ではありません。この状態を放置してきた99%の日本人こそ、改めて沖縄の置かれた状況について考えてほしいです」

 政府は辺野古移設について、「粛々と進める」「唯一の選択肢」と述べ、翁長県政以降、沖縄県との対話がままならないような状況が続いている。

これまでに戦中最後の沖縄県知事・島田叡や瀬長亀次郎を題材に映画を制作した佐古監督(WEDGE)

 「筑紫さんは番組を作るうえで、『多事争論』の精神を大切にし、『意見を戦わせて議論しよう』『論を愉しもう』とおっしゃっていました。沖縄に限らず、今の日本には、これが欠けているように思います。議論の場が失われたときに何が起きたのかを、この国は知っているはずです。戦後80年、今こそ思い返すべきではないでしょうか」 

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Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


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