沖縄政治は保守と革新、基地と経済という構図だけでは理解できない。政府と対峙してきた知事の苦悩から、その職務の困難さが見てとれる。「Wedge」2025年7月号に掲載の特集「終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち戦後80年特別企画・前編」の内容を一部、限定公開いたします。
戦後80年の今年5月3日、自民党の西田昌司参議院議員が那覇市で開かれたシンポジウムで「ひめゆりの塔」の説明について「歴史の書き換え」などと発言したことは、沖縄県内で大きな反発を引き起こした。太平洋戦争の地上戦で多くの民間人が犠牲となった沖縄では、戦争体験は今もなお、政治的立場を超えて敏感な問題である。
しかも沖縄戦は単なる過去の話ではなく、米軍統治、今日の基地問題と、日本本土とは異なる歴史を歩んだ沖縄の現在に〝地続き〟でつながっている。石破茂首相は西田発言を否定し謝罪したが、国内では同調する意見もあり、戦争の傷跡を癒やす時期としての「戦後」が、沖縄では80年たっても終わっていないことを浮き彫りにした。
近年、沖縄と本土との「溝」が指摘される。2022年のNHKの沖縄県民への世論調査では、「本土の人は沖縄の人の気持ちを理解しているか」という質問では、54%が「理解していない」と回答した。今回の西田発言のように、沖縄の歴史が本土で理解されていないことがその要因の一つであることは間違いない。最大の問題は、日本全国の米軍専用施設面積のうち約70%が沖縄に集中していることだ。多くの県民の反対にもかかわらず、普天間基地の名護市辺野古への移設工事を日本政府が進め、沖縄県と対立していることもその印象を深めている。
沖縄が戦略的に重要な位置にあり、日米同盟や日本の安全保障が重要だと考えるならばなおさらのこと、本土と沖縄の「溝」を深刻に捉える必要があるだろう。
そして、その「溝」を埋めるためには、沖縄の歴史と現状を理解することが不可欠だ。