2025年7月13日(日)

新幹線を支える匠たち

2025年7月6日

 清掃には時間の制約がある。しかし、こびりついた汚れを見ると「新幹線を常にきれいに保ちたい」というプライドが刺激されるという。時間内にいかにきれいに磨き上げるか。そこに各人各様のコツがある。本多さんの場合は、先頭部の表面に薬剤をかけて時間を置く。いちばん汚れている箇所にまず薬剤をかけた後、ほかの部分のブラシがけを行っている間に薬剤を十分浸透させ、頃合いを見計らってブラシでこすると、汚れがきれいに取れるという。汚れの状態によって薬剤を浸透させる時間が異なる。そのタイミングの見極めが〝匠の技〟なのだ。

博多新幹線事業所で副所長を務める本多さん。「管理者として、より良い職場、働きやすい職場をつくっていきたい」と、和やかな笑顔で語ってくれた

トイレの巡回は2時間おき
仕事の原動力はどこにあるか

 手嶌さんは駅舎の清掃を担当していた時期がある。「いちばん大変だったのは?」と尋ねると、「トイレ掃除です」。駅のトイレは人の出入りが激しい。一度きれいに磨いても、しばらくすると汚れてしまう。

 「お客様がいらしても、『すみません、ちょっと清掃させていただきます』と断りを入れて掃除をします。とてもきれいな状態に仕上げるのは無理でも、全体的にきれいな状態を保つように掃除をします」

「お客さまに気持ちよくご利用いただけるように。それが私たちの一番の目的です」と話す手嶌さん。その瞳のまっすぐさに、プロとしての矜持を感じた

 博多駅2階のコンコースは北側と西側の2カ所にトイレがある。1日に何回くらいトイレ掃除をするのだろうか。手嶌さんは「通常は2時間おき、多客期には1時間おきに巡回しています」と答えた。女子トイレは行列ができていることが多い。その行列を「すみません」と詫びてかき分け、個室の中を覗いてトイレットペーパーが切れていないか確認する。切れていれば、「お客様をあまりお待たせしないようにすぐに補充します」。

 トイレをきれいな状態で提供したいという使命感が仕事の原動力だが、それだけではない。ときどき清掃中に利用客から「いつもありがとう」と声をかけられることがある。手嶌さんも「お気をつけて行ってらっしゃいませ」と返す。そんなちょっとした声の掛け合いが楽しく、仕事のモチベーションになるという。今度、駅のトイレやホーム上で清掃する彼らの姿を見かけたら、感謝の気持ちを伝えようと思った。

次ここに来た人が「全く気付かない」ほど、汚れをきれいに拭き取っていく
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Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


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