歩く、歩く。1日2万歩。新幹線の清掃スタッフはこれほどの歩数を清掃しながら歩いている。2万歩を距離に直せば15キロ・メートルくらい。牛丼大盛り1杯分に相当する800キロ・カロリーを消費する計算だ。

「この仕事なら、働きながら健康になれますよ。ダイエットも兼ねられるので」
こう冗談混じりに話すのはJR西日本中国メンテックの本多亮一・博多新幹線事業所副所長(48歳)。同社はJR西日本のグループ会社で中国地方および福岡県におけるJR西日本の駅舎や新幹線・在来線の清掃を手掛ける。鉄道以外にも商業施設やオフィスビル、スポーツ施設の清掃も行う。
博多駅は東京から出発した東海道・山陽新幹線の終着駅。そして熊本・鹿児島方面に向かう九州新幹線の起点でもある。ひっきりなしに新幹線が到着し、大阪・東京方面、あるいは熊本・鹿児島方面に折り返して出発するわずかな時間に車内の清掃を行う。東海道新幹線でおなじみのN700S、N700Aに加え、新大阪以西を運行するN700系「さくら・みずほ」編成、700系レールスター編成、500系、さらには九州新幹線800系と、清掃を担当する列車は多岐にわたる。ただ、博多駅事業所の岡本健太郎係長(40歳)によれば、「車種によって清掃の仕方が変わるということはありません」。
清掃時間は16両編成の場合は15分、6両や8両といった短い編成の場合は10分。そのわずかな時間内に手早くゴミを回収し、座席やトイレを清掃する。座席に飲料がこぼれて濡れていても見た目ではわかりにくい。以前は水分検知センサーが付いたほうきで掃きながら座席の濡れをチェックしていた。ほうきが座席の濡れている場所に触れると「ピー」という音が鳴り、濡れていることを示す。しかし、省力化のため最近ではサーモカメラへの置き換えが進んでいる。カメラのレンズを座席の方向にかざすだけで座席の濡れの有無が検知できる。「清掃時間を短縮する目的で導入しましたが、かがんで座席にセンサーを接触させる必要があったほうきと比べ、腰への負担が少ないというメリットもあります」と岡本さんが話す。
ゴールデンウイーク、お盆、年末年始など乗客が多い期間中は、座席が濡れていることが普段よりも多いという。小さい子どもが飲料をこぼすことがあるからだ。
座席の濡れを発見したら基本的には乾かすが、間に合わなければそこに座る予定だった乗客に席を移動してもらうことになる。「なるべくお客様にご迷惑をおかけしないよう、博多駅事業所では濡れた座席はドライヤーで乾かすなどして使える状態にします」(岡本さん)。
時には、客室の通路上に残された吐しゃ物を清掃することもある。「座席は交換すればよいですが、通路はそうはいきません。お客様のためと思いながら磨き上げます」と博多駅事業所の手嶌博美さん(43歳)が話す。