「自動改札機のきっぷ挿入口にジュースが入って故障することもあるんですよ」
もちろん乗客が故意に入れたわけではない。片手に荷物、もう一方の手にはテイクアウトのドリンクという両手が塞がった状態で自動改札機にきっぷを入れようとすると、容器が傾いてドリンクがこぼれ、挿入口の中に入ってしまうことがあるのだという。
トラブルが起きると自動改札機の保守を担当する戸田雅之さん(53歳)の出番だ。ほかにもトラブルの原因はたくさんある。乗車券と特急券を重ねてまとめるゼムクリップを付けたまま挿入したり、濡れたきっぷを挿入したりして詰まることも。そこで疑問。きっぷがなぜ濡れるのか。「夏場にワイシャツの胸ポケットにきっぷを入れたままにしておくと1時間くらいで紙がふにゃふにゃになります」。
男性なら思い当たる人も少なくないのではないか。これも気をつけないといけない。
様々な故障の原因を教えてもらったが、「実際の故障率は0.1よりもはるかに少ない」と戸田さん。0.1とは駅に自動改札機が10台あったら、1カ月の間に故障が1件しか起きないという意味だ。予想していたよりもずっと少ない。故障率は1カ月毎に評価しており、冒頭紹介したようなケースの障害を含めても、その数は0.15程度。機械自体に原因がある故障に限れば0.05を切るほどの少なさだという。
東海道新幹線の駅に設置された自動改札機の保守業務を担当するのは、JR東海グループの東海交通機械(CKK)。その事業範囲は多岐にわたり、新幹線や在来線の車両検査、試験走行している山梨リニア実験線の車両・地上設備の検査、JR東海の各駅や施設に設置された機械設備の検査などを担当している。
自動改札機のほかに券売機、空調設備、エスカレーター、ホームドアなどあらゆる設備のメンテナンスや工事も行う。改札機とネットワークでつながっている各種システムに関わる保守やプログラム開発も手掛ける。戸田さんは機械事業部出改札システム支店東京エリア課に所属し、東京から熱海までの現場を受け持つ。
もともと自動改札機メーカーの協力会社の社員として、同機械のメンテナンスを15年続けてきた。故障のたびに現場に駆けつけていると、故障に共通したパターンが見えてきたことも。
「どうにかすれば改善できるのではないか」
だが、メーカーの協力会社の立場ではタイムリーな提案ができない。そこでCKKに転職した。メンテナンスが主な業務だが、「これは」と思ったポイントがあれば、メーカーに改善が可能か相談し、実現できそうならJR東海にも説明して予算化してもらい、実行に移す。いわばメーカーとJR東海の〝橋渡し役〟だ。改善を重ね、故障は目にみえるように減った。過去には自動改札機自体に起因する故障率の目標値を「0.25以下」として定めていたが、前述のとおり現在の故障率は0.05を切っている。