戸田さんが定期点検をしている傍らでは、自動改札機から穴があいたり印字されたりしたきっぷが出てくるのを見た小さな子供が「すごい、すごい」とはしゃいでいた。
「そういう光景を見るとうれしいし、やりがいもあります」
ハード・ソフトの両面から
機械の品質を把握する
東海道新幹線ではインターネットで予約し、チケットレスで乗車できる「EXサービス」が普及し、指定席に占める割合は6割近くに達している。紙のきっぷと比べるとチケットレス乗車が自動改札機の故障につながることは格段に少ないが、一方で、ICカードを読み取り機にタッチしても、うまく読み取ってもらえず、「ピー」という音がして通過できなかったという経験は誰もが一度はあるだろう。
この点について戸田さんに尋ねると、仕様としてあらかじめ定められた範囲内にカードを近づけたときに、読み取り機がそのカードの有無を検知できているか、検査する度に確認しているという。大体半径10センチ・メートル程度であれば検知できているような感覚もあるが、なぜうまく読み取ってもらえないことがあるのか。
「カードと読み取り機の重なり具合やカードの向きといった要因がありますが、こればかりは機械側では対応できません。お客様から『機械の反応が悪い』というお叱りの声をよくいただきますので、品質をちゃんと保てるよう、毎回気をつけてチェックしています」
CKKの実験拠点である「試験センター」には様々な検測機器にまじって実際の自動改札機がそのまま置かれている。駅ではない場所に自動改札機があるのは不思議な感じがする。この場所でCKKのスタッフたちが様々な試験を行う。戸田さんが実際の機器を扱う「ハード担当」の匠だとすれば、自動改札機内のプログラムを扱う「ソフト担当」の匠たちもいる。
玉井祐行さん(45歳)は新卒で入社後、東海道新幹線と在来線の自動改札機の保守や設置工事を担当してきた。2009年にはJR東海に出向し、EXサービスに関わる運用業務に携わった。出向から戻った後、しばらくは出改札システム部EX-IC課で自動改札機のシステム開発などを担当し、現在は社内の保全システムの開発を担う。玉井さんが目下取り組んでいるのはAIを活用した故障の予防保全。
「自動改札機から取ったデータをサーバーでぐるぐる回して、『この機械がそろそろ故障しそうだ』と指摘してくれるようなシステムを開発しています」
現在は少なくとも90日に1回の割合で点検を行っているが、玉井さんは「この割合は経験則で導き出されたものであり、妥当ではあるのですが」と前置きしたうえで、「機械には調子がいいものと悪いものがあり、前者はもう少し長いスパンで、後者はもう少し短いスパンで点検してもいい」と話す。そういえば、戸田さんが「設置場所によって故障の発生率に違いがある」と話していたのを思い出した。例えば改札口の両端よりも使用頻度が高い真ん中の自動改札口は故障率が高くなる傾向があるという。
