2025年12月6日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年7月15日

 いずれにせよ、日本は与しやすい交渉相手であるという米国側の期待と、米国にとって大事な日本は当然のごとく特別扱いされており、これまでもこれからもそのように扱われるべきであるという日本側の思い込みとが、大きくすれ違ったのが今回の関税交渉ではなかったのか。

「安易な妥協はしない」

 ただ、現実問題として、関税交渉では合意点を見つけるほかない。米国は妥協の国である。合衆国憲法からして、「妥協の束」と呼ばれることもあり、利害の異なる者たちが集まり話し合いを尽くし、妥協に妥協を重ねて作り上げたものである。

 例えば、1980年代の貿易摩擦の時は、日本から米国への自動車輸出に自主規制をかけたり、公用車の一部にアメリカ車をシンボル的に導入するなどして、関税問題の妥協点を探り、乗り切ったことが記憶に残っている。

 ところが、7月8日深夜のテレビで石破茂首相は、「安易な妥協はしない」と述べ、また翌9日のJR船橋駅前での参議院選挙の選挙演説では、「これは国益をかけた戦いです。なめられてたまるか」と発言した。関税交渉を戦いととらえ「敵国」米国に立ち向かうと宣言したのである。

 これは参院選の中、有権者に向けての発言であり、こうした強気な発言で選挙戦での勝利を呼び寄せて、その後、米国を持ち上げて妥結するという目論見があるのかもしれない。そのような腹芸が通じるほどトランプ政権と通じ合っていればよいが、意外と「なめられてたまるか」だけがダイレクトに相手方に伝わってしまうことを危惧すべきだろう。

 石破首相は同じ日のテレビ番組で「米国依存からもっと自立する努力をしなくてはいけない」とも発言している。それを鑑みればあの発言はもっと遠くを見据えてということともとれる。

経済関係にとどまらない変化の可能性

 今回の一件で日米同盟がすぐにどうにかなるということはないだろう。しかし、長期的に見て、日本が米国から離れていくきっかけとなるかもしれない。

 日本側としては米国に対してこれだけ意に沿っているのにいきなりこのような仕打ちにあうというのは納得いかないという受け止め方である。少なくとも多くの海外の主要メディアはそのようにとらえており、この騒動の敗者の一つが日米同盟と書くものもある。今回の一件は、経済的側面だけとっても極めて大きなものであるが、それだけでは済まないより大きな変化の始まりを示しているのかもしれない。

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