2025年12月6日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年7月15日

 特に日本との関係で見ると、二国間の相互認識が大きくずれていることがこの不幸な行き違いを招いているのではないだろうか。トランプからみれば、これまで日本には米国内で日本製品を自由に販売させることで散々稼がせてやってきた。彼が若きビジネスマンとして活躍した時期は、自動車などの日本製品が米国市場を席巻し、日本叩きが言われたころであった。

 さらにもっとさかのぼると、米国人には日本は自分たちが開国してやって文明を教え育ててやったという意識がある。そして、真珠湾攻撃の「だまし討ち」に遭いながらも、戦後は「寛大にも」復興を助けてやったどころか、自分たちの職を犠牲にして日本製品に市場を開いてやったという意識がある。また、安全保障面では「片務的な」条約によって日本を米軍が守ってやっている、今日の日本があるのは米国のおかげと無意識に思っているところがあるのである。

 にも関わらず、今回は関税交渉で素直に大きく譲ることなしに、自動車関税などで頑なに引き下げを迫ってくる。トランプはあてが外れたのではないだろうか。

 一方、日本側からしてみると、米国で日本製品が売れたのは、日本人が勤勉に働いて世界でもまれに見る優れた製品を安価な価格で製造することに成功したからであって、その間、製造業の改善を怠った米国人に文句を言われる筋合いはないという見方になるだろう。もっとさかのぼると、そもそも、開国を米国に頼んだわけではなく、ペリー提督によって武力で無理やり開国させられ、その時結ばされた条約では、日本は関税自主権すら持つことが許されなかった。西洋文明をいち早く取り入れることが出来たのも、米国人が教えてくれたというよりは、勤勉で優れた昔の日本人の努力によるという意識がある。

 戦後も、優れているうえに努力したからこそ、東洋の小さい島国が国内総生産(GDP)世界第2位にまでなれたのであり、また、安全保障面では、日本人が寛大であればこそ米国の世界戦略にとって必要な基地を日本国内に置かせてやっており、その費用の大きな部分まで払ってやっている、という感じではないだろうか。

すれ違いの原因

 このような二国間の認識のズレを支えていたのは実は冷戦だったという見方もできるかもしれない。繊維製品、カラーテレビ、自動車など大量の日本製品が米国に流入して問題となっていた頃、米国はソ連と冷戦を戦っていた。それらの貿易摩擦においてあまり日本を追い詰めると、日本が共産側についてしまうのではないか、そこまでいかなくとも、米国から離れて中立化してしまうのではないかといった議論が米政権内では常になされていた。そして、そのような懸念から常に米国政府は日本の事情に斟酌していたのである。

 当時は、日本国内で市民運動や学生運動は今とは考えられない広がりや熱量をもっており、それが米国政府にそのような態度をとらせていた。今日では冷戦構造は過去のものとなり、市民運動の熱も以前とは比べ物にならず、その分、米政府は貿易問題で日本に対して手心を加える動機が少ないのである。米軍基地を引き上げる可能性にトランプが平気で言及する所以である。


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