高騰するドイツの電気料金に高まる不満の声
再エネによる発電量の増加は、当然ながらFITに基づく消費者の買い取り価格の負担を増加させることになる。ドイツ政府は買い取り価格の減額を進めているが、負担額は20年間続くことから、減少に転じるのはかなり先のことだ。このため消費者の買い取り価格の負担は上昇を続け、14年の負担額は1kW時当たり6.24ユーロセント、標準家庭の年間の負担額は220ユーロ、日本円では3万円に達している。13年後半のドイツの家庭用電気料金も、欧州平均を50%上回り1kW時当たり29.21ユーロセント、日本円では40円に達し、デンマークに次ぐ2位の高さになっている。
ドイツ国内でもFITの負担額が高すぎるとの声が、産業界あるいは旧東ドイツ地区の住民を中心に高まってきたことから、13年9月の総選挙前から、当時のレスラー経済技術大臣、アルトマイヤー環境大臣が、電気料金抑制のために再生可能エネルギー法の見直しに言及するようになった。
総選挙後、メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟とガブリエル党首が率いる社会民主党が大連立し政権を担うことになり、ガブリエル党首が副首相と経済・エネルギー大臣を兼務することになった。連立政権の最大の課題は再エネ法の見直しにあるとされ、検討が始まった。
電気料金と産業の競争力
再エネ法の下では、ドイツの全ての電気の消費者がFITに基づく負担を行っているわけではない。電気料金の上昇が国際競争力に影響を与えると判断される約2100社の企業はFITの負担額の大半を免除されている。対象となっているのは鉄鋼、化学、金属精錬など電力多消費型業種だ。免除額は他の需要家の負担額に上乗せされている。
ドイツは国内総生産(GDP)に占める製造業の比率が約20%と、先進国の中では日本と同じく高い。関連産業を含めるとGDPの3分の1に達する。輸出額では、ドイツは中国、米国に次ぐ世界3位だが、1兆4000億ドルを超え、4位の日本のほぼ2倍ある。ドイツ経済にとっては、製造業と輸出の維持は死活問題になる。
この免除に対し、EU委員会の競争戦略担当のアルムニア委員は、産業界に対する不当な補助金であり、競争力を歪めているとして調査を行う意向を13年12月に明らかにした。ドイツ政府は、「国の競争力を維持するために必要な政策である。免除規定がなければドイツは脱製造業にならざるを得ないが、ドイツの産業を傷つけることはEUにとっても損失だ」と主張し、EU委員会と交渉を行うことになったが、ドイツ政府による再エネ法の見直しのなかで、この免除規定も再検討されることになった。