ウクライナが親ロシア路線に舵を切り、デモ隊が政府機関を占拠するなど国内が混乱している。リトアニア・ビリニュスで開催されたEUサミットの会場で11月29日に調印される予定だった欧州連合(EU)との連合協定調印を先送りする決断を行ったためだ。EUが条件とした服役中のティモシェンコ前首相のドイツの病院への移送をウクライナ国会が拒否したこと、隣国ウクライナのEUへの接近を嫌うロシア・プーチン大統領からの圧力が、先送りの大きな理由として挙げられている。
プーチン大統領からの圧力には当然だが、ウクライナ向け天然ガス供給の中断も含まれていた。天然ガスの供給中断が実行されれば、ウクライナだけではなく、EU全域に影響を及ぼす。その中にはロシアから最も離れている国の一つ、英国も含まれている。
その英国では、天然ガスと電気料金の上昇により、この冬、560万世帯のエネルギー価格の支払いが世帯収入の10%以上になり、エネルギー貧困層に陥ると報道されている。10月には、EU27カ国のなかで、英国のエネルギー貧困率がエストニアに次ぐ第2位になり、かなりの数の英国民が食料を取るか暖房を取るかの選択を迫られると報道された。
プーチンに脅されるウクライナ
プーチン大統領が天然ガス供給を材料に交渉するのは、今回が初めてではない。2006年と09年1月の厳冬期にウクライナとの天然ガスの価格交渉が難航したこととガス抜き取り疑惑を理由に、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給数量を大きく削減した。当時欧州向け供給の80%から90%はウクライナ経由のパイプラインで供給されていたので、欧州諸国にも大きな影響を与え、09年の中断の際には、ブルガリアなど6カ国向けのロシアからの供給が全て途絶するなど18カ国が影響を受けた。
06年のガス紛争の影響を受けた欧州諸国のうちドイツ、フランス、イタリアなどの西側諸国は、09年には天然ガスの備蓄をある程度行っていたが、ポーランド、ブルガリアなど東側諸国の多くは備蓄を持っていなかった。その状態は今も変わりない。厳冬期に天然ガスの供給が途絶するのは大きな恐怖だ。
09年の供給途絶の後、ウクライナ政府はロシア・ガスプロムからの購入価格を大きく上げることに合意した。いま、その価格は、ガスプロムのドイツ向け価格1000立方メートル当たり400ドルを上回る430ドルだ。ウクライナは「適正価格は250ドル」と主張しているが、プーチン大統領が提示した価格引き下げの条件は、ウクライナ国内のパイプラインをガスプロムに譲渡するか、あるいはロシアが主導する関税同盟にウクライナが参加するかだ。どちらもウクライナが受け入れられる条件ではなかった。