しかし、自由化以降、エネルギー価格が値下がりしていた最大の理由は、北海からの天然ガス生産量が増えたことだ。この天然ガスにより、価格が高かった国内炭使用の発電所の燃料切り替えも可能になり、電気料金も下がった。しかし、天然ガス生産量は、図‐3の通り、2000年にピークを打ち減少を続けている。英国のエネルギー価格が上昇に転じた最大の理由は自国産エネルギー生産量の減少だ。
安価なエネルギー価格に慣れていた国民には急激な値上がりは堪えたに違いない。さらに、英国には問題がある。家屋の断熱効果が極めて悪いことだ。英国では家屋の新築は年間18万戸しかなく、断熱効果の悪い家屋が多く使用されている。このために、エネルギー価格の総額の支払いが多くなり、1人当たりGDPが同レベルの欧州諸国よりエネルギー貧困率が数倍高くなる。政府が削減を計画している環境対策コストのなかには断熱工事への補助が含まれており、エネルギー価格引き下げ策が、中長期的にはエネルギー価格負担額の上昇を招く可能性がある。
さらに、英国の問題は所得の格差拡大だ。米国CIAのデータによると、英国のジニ係数(所得の格差を表す係数で0から1の間で表され、数字が多いほど所得に偏りがある)は05年の0.34が08/09年では0.4になり、貧富の差が拡大している。ドイツの0.27(06年)、フランスの0.33(08年)、イタリアの0.32(11年)、日本の0.38(07年)より高い数字だ。
英国の現状は自由化の行き着いた姿
日本への示唆
エネルギー市場を自由化すれば、企業には供給義務はなくなり、自由に価格設定が可能になる。様々な要因があるにせよ、英国の現状は自由化の行き着いた姿だ。これは消費者にとっては望ましいことではない。特に政府の価格引き下げの策の対象になっていない中小企業にとっては、エネルギー価格上昇は大きな問題だろう。先行している各国の事情をよく調査し、分析したうえで、日本も自由化、エネルギー市場改革を行う必要があることは言うまでもない。
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