また総合診療医は、患者の訴える症状に加えて、必要に応じて生活環境や仕事環境といった背景についても尋ね、図に書き出すなどして患者との相互理解を深めることもあります。なかなか腰痛が良くならないと訴える高齢の女性患者の生活状況を詳しく伺う中で、その方が寝たきりの高齢の夫を一人で介護しており、「地域に迷惑をかけたくない」と考えて、周りにその悩みを相談できずにいた事情が見えてくる場合があるといったことです。
このような場合、総合診療医は薬等の処方をしているわけではなく、この高齢女性とケアマネジャーをつなぐことで患者の健康を支える手助けをすることになります。これは言わば、総合診療医が、「社会的な処方箋」を提供したと言えるのではないでしょうか。
患者一人ひとりに向き合う診療が報われにくい現実
ところが、このように患者の人生背景も含めて向き合う総合診療を実践することには、日本では難しさが伴います。それは、医師個人の意識の問題ではなく、日本の診療報酬制度に起因する課題です。
現在の制度下では、診療所や病院が経営を成り立たせるには1日に数十人の患者を診察しなければならないと言われます。ドラマの第1話の冒頭でも、津田寛治さん演じる整形外科科長が診療報酬を〝稼ぐ〟ためには数多くの患者を診る必要があることを語り、患者の診察をした医師に対して、「一人の患者にそんなに時間をかけることはできない」と発言していたことからも伺い知ることができます。
医師たちは、一人ひとりの患者にじっくり時間をかける診療の重要性を理解していても、現実には一人当たりに割ける時間に限りがあり、その中で出来る限りの診察をしています。その結果、外来診療では一人の患者に数分程度しか時間をかけられないケースもあります。
さらに、前述したような薬等を伴わない「社会的処方」の取り組みでは診療報酬を得ることが難しいのです。医師たちは患者の健康維持にそうした社会的処方が重要であることを理解しているものの、現行制度のもとではどうしてもそれを行う優先度を下げざるを得ない場合があるのが実情です。
