日本の医療制度に求められること
そこで、日本の医療制度に求められることは、患者の健康維持に向き合うことに対して報われる報酬制度です。例えば、従来の患者の数やその検査・処置等の数に応じた出来高や複数の診療をまとめて算定する包括払いに加えて、キャピテーションという治療の有無に関係なく任意で登録した患者の数に応じて医療機関へ定額報酬が支払われる制度を組み合わせたものへと拡充することが考えられます。
このような制度は日本ではまだ議論されていませんが、海外で既に実装している国・地域もあります。その中でも、日本と同様にフリーアクセス(患者は受診する医療機関を自由に選択できる)という環境を保ちつつ、これらの制度の導入を進めている国や地域もあり、海外の事例も参考にしながら、日本に適した制度を検討できると考えます。
たとえばイギリスでは、国民がまず登録した診療所の医師を受診しなければその他の医療機関にアクセスできないという、いわゆる強制登録制が導入されていました。しかし強制的なかかりつけ医登録制は、日本のフリーアクセス環境になじまないです。
そこで参考になるのが、台湾の取り組みです。台湾は、住民・患者が自由に自分のかかりたい医療機関を選ぶことができるフリーアクセス環境を維持しながらも、出来高払い・包括払いに加えて、キャピテーションなどを組み合わせて、総合診療を提供しやすい制度を導入しています。
筆者は、2024年3月に台湾を訪問し、初めてこのキャピテーションという診療報酬制度が、東アジアで実装されていることを知りました。日本ではながらく、キャピテーションを導入すると、イギリスで以前実施されていた強制登録制の実装につながりかねず、フリーアクセスが阻害されると考えられていました。そして、行き過ぎたキャピテーションの導入は、医療機関が医療を提供しない方が収益をあげられるため過少診療に繋がることが懸念され、議論がほぼなされてこなかったこともあります。
一方で、台湾では任意で登録できるようにするとともに、慢性疾患患者を対象にキャピテーションだけでなく、その治療の成果に応じた成果払いの導入を進めています。
潮目は変わるのか
台湾のようにフリーアクセスを維持しつつ、キャピテーションという診療報酬制度を実装して総合診療を提供する国が欧州などにあります。日本でも心身の不調や悩みを専門領域の垣根を超えて相談できる総合診療を市民や患者にとって身近な存在とするため、診療報酬体系の見直しを含めた制度面での議論を進めていく必要があるでしょう。
今回のドラマを契機に、多くの方々が「総合診療を身近な診療所で受けたい」となれば、総合診療医に適した診療報酬制度の検討も進むと思われます。
