2025年12月5日(金)

プーチンのロシア

2025年8月25日

 多くの指摘があるとおり、トランプ政権がアラスカというロシアと伝統的に繋がりの深い土地を会談場所に選んだこと自体、配慮の表れであった。プーチン大統領を乗せた政府専用機がアンカレジの空港に着陸すると、トランプ大統領はレッドカーペットを敷いてプーチン大統領を出迎えた。とても、侵略戦争の当事者に停戦を迫るやり方ではなかった。

 会談後の会見でプーチン大統領は、米露の国境となっている島同士は4キロメートルしか離れておらず両国は隣人同士であること、ロシアとアラスカは歴史的・文化的紐帯で結ばれていること、アラスカはレンドリース(第二次世界大戦中の米国による対ソ連武器支援)の主要供給ルートとなったことなどを強調した。さらに、米露間には通商、エネルギー、デジタル、ハイテク、宇宙、北極開発などで大きな協力の可能性があり、くしくもトランプ政権になってから米露貿易は20%ほど増えていると指摘した。

 その口振りはまるで、今回の首脳会談は、一時期途切れていた米露の友好関係を再開するためのものであり、話題の一つとしてウクライナの問題も多少は話し合われた、といわんばかりであった。

 トランプ大統領は以前から、ロシア・ウクライナ戦争はバイデン前政権が始めたものであり、自分がその当時大統領であったなら、そもそもこの戦争は起きなかったとうそぶいてきた。今回の会見で大きく注目されたのは、プーチン大統領がそのトランプ氏の見解に「私もそう思う」と同調してみせたことである。ロシア側は、「ロシアと米トランプ政権は現実的な和平に動こうとしているのに、ウクライナや欧州がそれを妨害し、戦争を続けようとしている」という構図を、殊更に強調しようとした。

 会談後にトランプ大統領は、問題はゼレンスキー大統領が和平の条件を飲むかどうかだという認識を示した。ドネツク州、ルハンシク州というドンバス地方全域からのウクライナ軍の撤退をはじめ、トランプがプーチンの主張になびいてしまい、ウクライナに不利な和平案をゼレンスキーに押し付けようとするのではないかとの不安感が広がった。

トランプの付和雷同で雰囲気一変

 ところが、アラスカでの米露サミットからわずか3日後に、情勢は大きく変わることになる。トランプ氏についてはしばしば、最後に話を聞いた相手の言うことを信用し、その意見になびきがちということが言われるが、それを地で行く展開となった。

 8月18日、トランプ大統領はホワイトハウスにウクライナのゼレンスキー大統領を迎え、欧州からはドイツのメルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのメローニ首相、英国のスターマー首相、フィンランドのストゥブ大統領、欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、ルッテ北大西洋条約機構(NATO)事務総長が駆け付けた。近年これほど多くの首脳がホワイトハウスに一堂に会するのは異例とされ、それだけ欧州側の危機感が大きかったことの表れだった。当日は、まずトランプ大統領とゼレンスキー大統領による個別会談がオーバルオフィスで行われ、その後、東の広間に場を移して欧州首脳を加えた多国間会談が行われた。

 前回2月のホワイトハウスでの会談時には、ゼレンスキー大統領が「不敬」とされて非難されるなど、ぎすぎすした空気となった。しかし、今回は雰囲気が改善され、ゼレンスキー大統領は冒頭で何度もトランプ大統領へ感謝の意を示す発言を繰り返した。欧州首脳らもトランプ大統領に対し賛辞を重ね、友好的な場となった。

 そして、欧州首脳からは、ウクライナがロシアへの領土割譲を迫られるような事態に断固反対する姿勢が強調された。また、ウクライナに対しNATO第5条に類する強力な安全保障の提供が必要であるとの主張が相次いで示され、トランプ大統領も米国がそれに協力する方針を明らかにした。欧州諸国が資金を負担する形で、米国製兵器を含む約900億ドル相当の武器パッケージをウクライナに提供することも議論された。

 ここで変則的だったのは、トランプ大統領がホワイトハウスでの多国間会議の途中にプーチン大統領に電話をかけたことである。この電話は、当初は欧州首脳との協議が一段落してから行う予定だったものの、EU関係筋によれば会議の進行中に中断して電話を入れたとのことだ。この電話は40分ほど続いたという。


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