筆者はWedge ONLINEに昨年、「【“幻の”貿易統計集からロシア貿易を検証】制裁の影響は?中国・インド・トルコへ傾斜で生まれた痛手」というレポートを寄稿した。詳しい貿易統計をウェブ上で一般に公開することはなくなったロシア当局ながら、実は紙の貿易統計集は今もひっそりと刊行され続けており、それを使えばロシアの相手国別の貿易額なども把握できるということをお伝えした。
そこで、ロシアの貿易統計集を改めて紐解き、北朝鮮との輸出入額を調べて、それをもとに図1を作成してみた。なお、ロシアの紙の貿易統計集は出るのが遅いので、現時点では2023年の数字までしか判明していない。
筆者は、長らく貿易促進団体に勤務していたので、ロシアの貿易統計を入手してはそれを図表にまとめ、日本の実務家の皆さんにお届けするということを、半ばライフワークとしてきた。しかし、ことロシア・北朝鮮関係に関しては、ロシアの貿易統計を用いた作業に、無力感を覚える。図1に見るように、両国間の貿易は往復で年間1億ドル以下のまったく取るに足らない規模であるというのが、公式統計の答えである。
いくら何でも23年のロシアの対北朝鮮輸入が「ゼロ」ということはないだろう。23年と言えば、北朝鮮によるロシアへの砲弾供給が注目され始めた年である。北朝鮮からロシアに渡った砲弾が、きちんと貿易統計に記録されれば、23年の輸入額は跳ね上がっていたはずだ。
最近ロシアの貿易統計では、相手国が「不明」とされる取引が増えているので、あるいは北朝鮮からの武器輸入はそのような形で処理されているのだろうか。いや、北朝鮮からロシア領への武器の搬入は、隠密裏のオペレーションだろうから、そもそも税関を一切通していない(ゆえに貿易統計にも記録されない)公算が大きいかもしれない。
これが、ロシアの対中国、対インド貿易であれば、中国・インド側が発表している貿易統計をミラーデータとして用い、分析を行うことが可能となる。しかし、北朝鮮は貿易統計を一切公表していないので、ロシア・北朝鮮貿易を北朝鮮側のデータから追うということもまた不可能である。
北朝鮮との関係は、ロシアの継戦能力を左右する要因に浮上し、注視すべき対象となっている。上述のとおり、公式統計を用いた正攻法の分析は困難で、断片的な情報をかき集めるしかないが、本稿では筆者が専門とする経済に主眼を置きながら、ロシア・北朝鮮関係を概観してみたい。

